このコンテンツは、弊社が看護師免許を確認した看護師が執筆しておりますが、ご自身の責任のもと有用性を考慮してご利用いただくようお願いいたします。
このページでは、糖尿病性腎症の患者の症状や治療方法、看護計画、看護の注意点、看護で求められるスキルについて紹介しています。
糖尿病性腎症の患者の症状
糖尿病性腎症は臨床徴候によって第1期から第5期に分類されています。
各病期の段階での症状と、どの病期でも共通して現れる糖尿病由来の症状について説明していきます。
糖尿病性腎症の患者の症状第1期~第5期
糖尿病性腎症の第1期~第5期の患者の症状は、以下の表の通りです。
第1期(腎症前期) | ・自覚症状なし |
第2期(早期腎症期) | ・臨床症状として微量アルブミン尿が見られる |
第3期(顕性腎症) | ・顕性腎症前期では持続した蛋白尿がみられる ・顕性腎症後期で自覚症状が現れる ・高度な蛋白尿で低蛋白血症による浮腫(全身または下肢) ・胸腔や心嚢への水分貯留による体動時の息切れ ・腹水貯留による食欲不振や腹部膨満感 |
第4期(腎不全期) | ・糸球体が荒廃し回復しない状態となる ・自覚症状もさらに著明に現れる ・貧血による易疲労感、顔色不良 ・消化管尿毒症による嘔気や嘔吐 ・低カルシウム血症による筋肉の硬直や疼痛 ・腎性異骨栄養症による骨の疼痛など |
第5期(透析療法期) | ・腎臓の機能がほぼなくなる |
各病期に共通する症状(糖尿病に由来する症状)
糖尿病の症状として、
- 易疲労感
- 口渇
- 多飲・多尿
- 下肢のしびれ
- 間歇性跛行
- 便秘や下痢
- 勃起障害
- 視力低下
- 眩暈
などが現れます。
糖尿病性腎症の患者に対する治療方法とは
治療方法も、糖尿病性腎症の病期によって分けられます。
糖尿病性腎症の第1期の治療方法
糖尿病性腎症の第1期の時期は、発症予防が中心であるため血糖コントロールが重要となり、HbA1cが7.0%未満、血圧が130/80mmHg未満になるようにします。
補足説明!
食事指導としては、「蛋白質を摂りすぎないように」高血圧を合併している患者には「塩分を6g/日未満にするように」指導をします。
糖尿病性腎症の第2期の治療方法
糖尿病性腎症の第2期の時期には、厳格な血糖コントロールと血圧管理を行い、尿中のアルブミン量を減らす事が必要であるため、蛋白質の摂取量は1.0~1.2g/kg/日です。
高血圧治療のために、降圧薬を導入する場合もあります。
ポイント!
早期に治療し、持続していく事で予後が左右されるため、患者に自己管理の必要性を説明して持続可能な治療方法を選択していくことが重要です。
糖尿病性腎症の第3期の治療方法
糖尿病性腎症の第3期の時期は、第2期と同様に血糖コントロールと血圧管理、塩分と蛋白質を制限した食事に加えて、カリウム制限、運動制限を行います。
塩分摂取量・蛋白質摂取量・カリウム摂取量の詳細については、以下の通りです。
塩分摂取量 | ・7~8g/日 |
蛋白質摂取量 | ・0.8~1.0g/kg/日 |
カリウム | ・軽度の制限 |
糖尿病性腎症の第4期の治療方法
第4期以降の血糖コントロールは、使用できない内服薬も多くなってくるため、原則インスリン療法で行います。
糖尿病性腎症の第4期の塩分・蛋白質・カリウム摂取量の詳細については、以下の通りです。
塩分摂取量 | ・5~7g/日 |
蛋白質摂取量 | ・0.6~0.8g/kg/日 |
カリウム | ・1.5g/日未満 |
糖尿病性腎症の第5期の治療方法
糖尿病性腎症の第5期の時期では、透析導入基準に従って透析による治療を行います。
透析に伴って代謝異常も出現するため、食事は透析導入前よりも蛋白質制限は緩和されますが、水分制限・カリウム制限は厳重に行う等、厳重な管理が必要です。
ポイント!
患者に対しては、透析療法について早期に説明を行い、理解を得ることが必要です。
糖尿病性腎症の患者の看護計画
ここでは、糖尿病性腎症の患者の看護計画について紹介していきます。
#1腎症の進行を予防する事が出来る
看護目標 | ・腎症の進行を予防する事が出来る |
OP (観察項目) |
・バイタルサイン ・血糖値 ・腎機能のデータ ・浮腫 ・食事内容 ・アルブミン尿または蛋白尿の有無 ・運動量 ・服用薬の内容 |
TP (ケア項目) |
・血糖コントロールが適切に行われているかアセスメントする ・血糖降下薬や降圧剤などの服用がきちんと出来ているか把握する |
EP (教育・指導項目) |
・腎症が進行する際に出現する症状について説明する ・症状が見られたら受診してもらうように説明する |
#2自己管理の必要性を理解し、主体的になることができる
看護目標 | ・自己管理の必要性を理解し、主体的になることができる |
OP (観察項目) |
・血糖値 ・食事の習慣や内容(塩分量や蛋白質摂取量) ・運動習慣の有無 ・アルコールや喫煙の有無 ・説明した際の反応 |
TP (ケア項目) |
・食事指導を行い、持続できるような方法を患者とともに話し合う ・血糖コントロールや食事の管理が今後の病状を左右することを伝える |
EP (教育・指導項目) |
・必ず定期的に受診してもらうように説明する ・分からない事や変化があれば受診してもらうよう説明する ・必要時家族にも協力してもらうように説明する |
#3内服薬の必要性を理解することができる(第2期)
看護目標 | ・内服薬の必要性を理解することができる |
OP (観察項目) |
・バイタルサイン ・血液検査データ ・血糖値、HbA1c ・内服薬の数や種類 ・薬に対する患者の認識 ・薬の管理方法 |
TP (ケア項目) |
・自宅での薬の管理方法を把握する ・検査データから内服薬の量や種類をアセスメントしてもらうよう医師に依頼する |
EP (教育・指導項目) |
・薬の必要性を理解してもらうように薬剤師と協力して説明をする ・薬の配薬方法など、家族も交えて様々な方法を紹介する(お薬カレンダーなど) |
#4症状を軽減することができる(第3期以降)
看護目標 | ・症状を軽減することができる |
OP (観察項目) |
・血糖値の変動、HbA1c ・血液検査データ ・胸部レントゲン検査データ ・心電図データ ・尿量 ・浮腫の有無、 ・胸苦、息苦しさ ・腹部膨満感 ・皮膚の状態 |
TP (ケア項目) |
・浮腫がある場合は、安楽な体位を取る ・体重測定を行い、水分の出納管理をおこなう ・皮膚を清潔に保ち、乾燥を防ぐ |
EP (教育・指導項目) |
・自覚症状が悪化した場合は伝えてもらうよう説明する |
#5透析導入における不安を解消することができる
看護目標 | ・透析導入における不安を解消することができる |
OP (観察項目) |
・透析に関する知識、理解度 ・食事摂取量、食欲 ・表情、言動 ・睡眠状況 ・生活習慣 ・家族の協力体制 |
TP (ケア項目) |
・透析治療の必要性を説明する ・透析に伴いライフスタイルをどのように変化させていくか一緒に考える ・患者が気持ちを表出できるような環境を整える ・家族に協力を得る |
EP (教育・指導項目) |
・透析に関する疑問があればいつでも聞いてもらうように説明する ・透析に関してイメージが付きやすいように教材を用いて説明する |
#6シャント造設術後の感染を予防することができる
看護目標 | ・シャント造設術後の感染を予防することができる |
OP (観察項目) |
・バイタルサイン ・血液検査データ(CRP,WBCなど感染徴候の確認) ・シャント造設部位のトラブル(発赤、腫脹、痛み、出血の有無など) |
TP (ケア項目) |
・創部を観察し、トラブルがないかチェックする ・創部の清潔が保持できるように援助する |
EP (教育・指導項目) |
・痛みが増強するようであれば伝えてもらうよう説明する |
糖尿病性腎症の患者の看護の注意点
糖尿病性腎症の患者を看護する際の注意点については、以下の通りです。
患者の意欲が失われないようにする
糖尿病性腎症患者への血糖コントロールや血圧管理においては、服薬を正しく行い、塩分や蛋白質を抑えた規則正しい食事を習慣化できるように指導をしますが、厳しく徹底した指導を行っても患者は窮屈に感じてやる気を失ってしまいます。
そのため、患者の生活を把握して、実行できそうな事を患者と共に決定していき、患者のやる気を引き出すような指導をする事が大切です。
ポイント!
特に2型糖尿病の患者は、生活習慣や食習慣が乱れていた人が多くいるため、今までの習慣と指導内容に差がありすぎると意欲を失いやすいため、患者がいかに自宅での自己管理を行う事ができるかが重要です。
患者の不安やストレスを理解して指導にあたる
糖尿病性腎症の場合は、透析に対して「怖い」「痛い」というイメージをもっているために、最終的に透析をしなければならない事に強く不安を感じる人も多いです。
そのため、患者の状況にあるストレスや病気に進行への恐怖感を理解し、患者の気持ちに寄り添って指導にあたることが必要です。
もし自分が患者の立場だったらと考える
糖尿病性腎症の患者は、「食生活を薄味にしなければならない」「好きな物を好きなように食べられなくなる」等のことを毎日行わなければならず、もし自分が患者だったらと考えると、いかに生活習慣や食習慣を変える事が大変であるかが分かります。
糖尿病性腎症の患者への看護で求められるスキル
糖尿病性腎症の患者の看護をする際に求められるスキルには、「コミュニケーション能力」「病状の進行の早期発見する観察力」が挙げられます。
それぞれについて、見ていきましょう。
患者が受診を嫌がらない様なコミュニケーション能力
糖尿病性腎症患者への生活指導は難しく、中には説明しても聞き流している人もいますが、そうした患者が受診をしなくなることが多いです。
そのため、患者と信頼関係を築き、話を聞いてもらえるような関係になる事が大切で、「必ず〇ヶ月に1回は顔を見せて下さいね。」「またお話聞かせて下さいね」などと受診を途絶えさせないように言葉掛けをするなど工夫が必要です。
受診を怠ったために病状が悪化する場合もある
受診を怠ったために病状が悪化するというケースも少なくありません。
患者が受診しない理由としては、
- 病状悪化に危機感を持たず、呼吸苦などなるまで放置している場合
- 血糖コントロールや食事管理を行う事ができず、医師や看護師に責められるのが嫌で受診しないという場合
等があり、生活指導の際に十分に説明ができていない・伝わっていないことが原因です。
病状の進行を早期発見する観察力
糖尿病性腎症患者がどの病期にあるのかをアセスメントし、症状や検査データから進行が見られる場合は、早期に指導内容の変更や患者の生活習慣の見直しを行うことが必要です。
さらに、医師・栄養士・薬剤師と密に連携し、今後の治療方法についての検討ができることが大切です。
補足説明!
糖尿病性腎症患者の「どの病期にどんな症状が現れるか」という知識も持ち、少しでも早い段階で食い止めることができるような支援をしていきましょう。
まとめ
参考文献は、以下の通りです。
- 糖尿病療養指導ガイドブック/一般社団法人 日本糖尿病療養指導士認定機構
糖尿病性腎症の患者は、他の合併症もいくつか同時に現れている事が多いため、糖尿病自体の症状に加えて様々な身体症状に悩まされています。
そのため、患者に寄り添い、病気と向き合って長期的に自己管理していくことができるように援助し、患者と共に病状や生活の仕方について考えていくことが看護師の役割です。