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一過性脳虚血発作は脳外科や救急科でよく見られるものの、脳梗塞と混同しやすいため注意が必要です。
ここでは一過性脳虚血発作の症状と、看護計画や看護の注意点について詳しくご説明します。
一過性脳虚血発作とは
一過性脳虚血発作とは、一過性で脳局所の神経症状が急速に出現するものの、1時間以内、長くても24時間以内には消失するもののことを言います。
脳梗塞の前駆症状ともいわれ、症状出現時には脳梗塞と勘違いされることもあります。
一過性脳虚血発作の起こる原因
一過性脳虚血発作が起こる原因として、
- プラークなどが微小塞栓物となり一時的に脳血管を閉塞させている
- ショックや心疾患などで全身の血圧低下がみられた時に脳の血流が低下し、一時的に脳局所に血液がいきわたらなくなった
このような時に症状が出現します。
一過性脳虚血発作患者の症状
一過性脳虚血発作の症状は、閉塞部位によって異なります。
内頚動脈が閉塞された場合の症状
内頚動脈が閉塞された場合、
- 片側の運動麻痺や感覚障害、失語、失認などが現れる
- 一過性黒内障と言い、目の前に黒いカーテンが引かれたり霧がかかったりしたかのように片方の目が2~3分見にくくなり、20分ほどで元に戻る
- 塞栓していた物質が網膜の血管を流れるため、ゴミのようなものが流れていくのが見える
などの症状が見られます。
椎骨脳底動脈系が閉塞した場合の症状
椎骨脳底動脈系が閉塞した場合には、
- 片側もしくは両側の運動麻痺や感覚障害
- 平衡障害
- 同側半盲
- 複視
- 嚥下障害
- めまい
などの症状が出現します。
脳梗塞と同様の症状が見られる
一過性脳虚血発作の患者で注意しなければならないのが、脳梗塞との症状の鑑別です。
一般的に、前述した症状は脳梗塞の時にも出現するためしばし間違われやすくなります。そのため、上記の症状が出現した場合には、以下の症状が見られないかどうかを確認することがポイントとなります。
一過性脳虚血発作の場合に出現しない症状
通常、一過性脳虚血発作の場合に出現しない症状としては以下が挙げられます。
- 回転性のめまいや嚥下障害、ふらつき、構音障害、複視、健忘、錯乱のいずれかのみが出現した場合
- 失禁をする場合
- 転倒発作が出現した場合
この症状が出現しているかどうかが一過性脳虚血発作と脳梗塞を見分けるポイントとなります。
ポイント!
患者の症状がいつ出現していつ消失したかを把握しておくのも看護師が注意しておかなければならないことの1つとなります。そのため、患者の症状を注意深く観察する必要があります。
一過性脳虚血発作の治療
一過性脳虚血発作は放っておくと症状が進行し、脳梗塞へと移行する可能性があるため、脳梗塞の予防的治療を念頭に置いて治療を行います。
治療は主に薬物治療となり、抗凝固薬や脳保護薬を使用します。
外科的な治療も検討される
以下の場合、外科的な治療も検討されます。
- 高度な狭窄が見られる場合
- 内頚動脈がすでに閉塞し、側副血行路を使用して血液を送っているために血流が低下し、一過性脳虚血発作を起こしている場合
この際には頸動脈内膜剥離術を行います。内頚動脈に約70%以上の狭窄がある場合には適応となります。
一過性脳虚血発作患者の看護計画
看護計画を立てるにあたり、まず#1に「TIAの悪化により脳梗塞に移行する可能性がある」が挙がります。
次に、#2は「一過性脳虚血発作が出現することで転倒や誤嚥、窒息を起こす可能性がある」が挙がります。
そして#3には「病識が薄いため症状を悪化させる可能性がある」が挙がります。
詳しく見ていきましょう。
#1 TIAの悪化により脳梗塞に移行する可能性がある
一過性脳虚血発作の看護の問題点として、#1にTIAの悪化により脳梗塞に移行する可能性があるとなります。
短期目標 | 脳梗塞を起こすことが無く経過できる |
OP (観察項目) |
・バイタルサイン(血圧、体温、脈拍、SPO2) ・頭痛、嘔気の有無と程度 ・運動麻痺の部位と程度 ・感覚障害の部位と程度 ・めまいの有無 ・嚥下障害の有無 ・眼症状の有無(一過性黒内障、複視、同側半盲) ・症状が出現してから消失するまでの時間 ・患者の既往歴 ・CT、MRI所見 ・患者の日常生活スタイル ・治療内容(使用する薬剤) ・脳梗塞症状の有無(回転性のめまいや嚥下障害、ふらつき、構音障害、複視、健忘、錯乱のいずれかのみが出現、失禁) ・点滴刺入部の腫脹、熱感、疼痛の有無 ・点滴漏れの有無 |
TP (ケア項目) |
・指示時間通りに薬剤を確実に投薬する ・患者が苦痛なく治療を継続できるよう点滴は利き手と逆側に刺入し、行動がとりやすいようにする ・脳梗塞時の症状が出現していないかをバイタルサイン時は適宜確認する ・脳梗塞時の症状と類似した症状が出現したらすぐに医師に報告して指示を仰ぐ ・一過性脳虚血発作出現時には症状出現した時間と症状消失した時間を報告する |
EP (教育・指導項目) |
・症状が出現したらすぐにナースコールで看護師を呼ぶよう説明する ・不調が生じた場合にはいったん一休みするよう説明する |
#2 一過性脳虚血発作が出現することで転倒や誤嚥、窒息を起こす可能性がある
一過性脳虚血発作は移動中や日常生活を送っている中で突然発症します。そのため、#2は一過性脳虚血発作が出現することで転倒や誤嚥、窒息を起こす可能性があるとなります。
短期目標 | 一過性脳虚血発作による転倒や誤嚥が起こることなく経過する |
OP (観察項目) |
・運動麻痺の有無と程度 ・感覚障害の有無と程度 ・嚥下障害の有無と程度 ・症状出現時間と消失時間 ・脳梗塞症状の有無 ・症状出現時の状態(いつ、どこで、何をしていたか) ・既往歴 ・使用している薬剤や治療の状況 ・過去の転倒歴 ・意識レベル |
TP (ケア項目) |
・症状が出現したら医師へ報告し指示を仰ぐ ・食事中であり、口腔内に食材があり、自己にて喀出不可能であれば吸引を行う ・移動中に症状が出現したら一旦その場でしゃがむなどして動作を中断させる ・症状が消失後、食事中であった場合はレントゲン等を撮り誤嚥がないか確認してもらう |
EP (教育・指導項目) |
・めまいや体が動かしにくいなどの症状が出現したらその場でしゃがむよう説明 また、食事中であれば、ものを飲み込みにくくなった時に一旦中断するよう説明する ・症状が出現したらナースコールで看護師を呼ぶよう説明する。 ベッド以外のところにいた場合は他の患者へ看護師を呼ぶように依頼するよう説明する |
#3 病識が薄いため症状を悪化させる可能性がある
一過性脳虚血発作の患者は症状が一過性で、ましては1時間ほどで軽快することから病識が薄い患者が多い傾向にあります。そのため#3には病識が薄いため症状を悪化させる可能性があるとなります。
短期目標 | 病気についての理解を深め、自ら治療に対して意欲的に取り組む |
OP (観察項目) |
・過去に経験したことのある一過性脳虚血発作症状 ・現在の症状出現の有無と頻度 ・検査所見 ・日常生活動作と生活の背景 ・病気に対しての理解とその思い ・医師からどのような説明を受けているか ・現在使用している薬剤 ・喫煙、飲酒歴 |
TP (ケア項目) |
・一過性脳虚血発作と脳梗塞の関係についての情報提供を行う ・患者が自分の疾患に対して理解できていない所や質問があればその都度対応する ・栄養指導や運動指導などを他職種にも協力を依頼して行う できれば家族の同席も依頼する ・喫煙歴があれば禁煙指導も行う ・服薬コンプライアンスが低下しないよう、薬に関しての説明も薬剤師に依頼して実施する |
EP (教育・指導項目) |
・患者の質問には適宜応対することを説明し、分からないことは何でも質問するよう説明する ・一過性脳虚血発作に対して自己でもできる予防策を説明する ・現在行っている治療の重要性を説明する |
看護の注意点
一過性脳虚血発作の患者の看護をするうえで、看護師が注意するべきことをご紹介します。
二次的な合併症を起こさせない
一過性脳虚血発作が起こりそうな気配、例えば片方の手足が動きにくくなった、ものがなんだか飲み込みにくいと患者が感じているまたは看護師がそう見えた場合はすぐに動作を停止させることが必要となります。
二次的合併症を起こしやすい事例
一過性脳虚血発作が起こった際、何かしていた場合はそれに伴う二次的な合併症を起こしてしまうケースがよくあります。特に、
- 移動中に一過性脳虚血発作を起こして転倒し、頭部を強打して脳出血を起こした
- 食事中に一過性脳虚血発作を起こして窒息をした
- 食事が気管に入ってしまい誤嚥を起こして誤嚥性肺炎となってしまった
などといった事例があるため、注意が必要です。
患者に危険意識を持たせる必要がある
入院期間中いかに患者にこの病気の知識を与えて病識を強め、自己の危険意識を持たせられるかも看護として大切です。
一過性脳虚血発作はその時にだけ症状が出現し、以後はいつもと同様であるため病識が薄い人が多く、
- 退院したら薬を飲まないという人
- 入院中もこっそりタバコを吸いに行った人
- 病院食以外の高カロリー、高脂肪の食べ物をこっそり食べていた人
ということもよくあり、そのような患者は退院してから数週間後に脳梗塞に移行して再入院することが多かった印象です。
ポイント!
栄養指導など看護師だけでは難しい部分は栄養士などのプロに関わってもらうことでより一層理解を深めることができます。患者だけだと忘れてしまった、出来なかったなどと言ってやらなくなることもあるので家族を巻き込むと効果的です。
まとめ
参考にさせていただいた文献は以下となります。
一過性脳虚血発作は、症状が出現しなければ一般の人と何ら変わりがなく見えます。病室で発作を起こしても患者が黙っていれば分からないため、症状を見落とす看護師が多いのも特徴です。
しかし、症状をしっかりと見極め、治療に専念させることで脳梗塞の発症を抑えることができます。そのため一過性脳虚血発作の看護は、予防に関する看護を学ぶというところにも精通しているところがあるともいえるでしょう。
また、看護師の観察力が二次的な合併症を抑えると言っても過言ではありません。
患者とじっくり向き合うことが看護として必要になる疾患ですが、患者が病識を深め、意欲的に治療をしている姿を見るのは看護師としても嬉しいことでしょう。
ぜひ、患の生活背景にも目を向けて看護を実施してみてはいかがでしょうか。