このコンテンツは、弊社が看護師免許を確認した看護師が執筆しておりますが、ご自身の責任のもと有用性を考慮してご利用いただくようお願いいたします。
AYA世代と呼ばれる15歳から30歳代の若い世代でがんに罹患する患者と家族の支援には、難しさを感じる看護師も多いでしょう。
自分と同じ世代か自分よりも若い世代で、しかも女性しか持たない臓器である子宮がんに罹患した若い方の支援をするには、どのような声かけを行えばよいか戸惑ってしまいます。
ここでは、若い子宮がん患者とその家族への看護師としての声かけについてご紹介します。
若い子宮がん患者への声かけの基本
看護師が若い子宮がん患者への声かけする際の方法についてご説明します。
他の患者と同じ声がけをする
子宮がんにかかったことはショックであり、若い年齢で人生の岐路に立たされたことは大変な出来事になるかも知れません。
しかし、それはあくまで患者と家族がどう捉えるかによって意味合いが変わります。
あくまでも、普通の患者と同じように接し、時には冗談を言って笑いあえる環境を作ることが大切です。
人は対応が難しいと感じると、変に意識して明るく声をかけたり、神妙な声をかけたりしがちです。これは医療者でも同様で、相手に「気の毒だ」「自分だったらショックだ」といった感情を抱いて声をかけることは逆に相手を傷つけることもあります。
病気や症状についてはプライバシーに配慮する
他の患者と同じように対応しながらも、病状や症状について質問するときのプライバシーへの配慮は必要です。
看護師は高齢の方と話すことが多いため、声が大きくなりがちです。しかし、年齢が若ければ若いほど、女性器特有の症状について周囲に聞かれることに抵抗を示します。
周囲に誰がいるか、話しかける自分の声のトーンは適切なのかを意識して患者に声かけすることが大切です。
患者会など同じ体験を語れる場を紹介する
若い年齢で子宮がんになり、これからの人生を生きるためには、患者会などでがん体験を経験した女性の話を聞くことも患者や家族の支えとなります。
患者が病気になったことを受け入れ始め、他の患者のことを知りたいといった言葉が聞かれた時には、「同じ体験をした方の話が聞ける患者会があるけど、行ってみたら?」と声をかけて、パンフレットなどの情報を提供するようにします。
補足!
女性特有のがんサロン「オレンジシティ」や、がん哲学カフェ、また35歳以下にがんを発症した方が対象の患者会「STAND UP!!」などもあります。
強制しないことが大切である
患者会を紹介する際、大切なことは患者に「強制しない」ことです。
患者会は、相性が合わないと逆に嫌な思いをしてしまうこともあります。
「疲れたら途中で帰ってきても、無理に自分のことを話さなくても大丈夫よ」と追加の説明をして、あとは患者と家族の判断に委ねることが大切です。
女性が気になることから話すきっかけを探る
私の経験上、乳がんの患者よりも子宮がんの患者の方が、自分の病気について話したがらない傾向があるように感じます。
それは、外から見えないがんでありながら、女性として大切な臓器を失うこと、子宮がんが持っている偏見などが影響するようです。
若い子宮がん患者に話しかけるきっかけとして、女性が気になることからアプローチする方法をご紹介します。
患者のファッションなどの変化を話題にする
まずは子宮がん患者に気持ちを話してもらうための信頼関係を構築できる声かけをすることが大切です。
そのきっかけになるのが、ヘアスタイルや化粧、服装やお化粧、持ち物の変化です。
患者が自分で選んだ服装や色、ヘアスタイル、身の回りのグッズのことを話題にすることは、「自分のことを気にかけてくれている」ことが伝わりやすいのです。
- 「ヘアスタイルを変えたの?」
- 「●●が好きなの?この前も持っていましたよね」
などの声かけをきっかけにして、そこから生活のことや体調の変化、病気のことについて話を深めていくことが話の流れとして良いでしょう。
頭皮や皮膚トラブルを確認する
子宮がんの患者の症状は、周囲に見えにくい面があります。そのため、陰部のトラブルや痛み、リンパ浮腫などについても積極的に話してくれない傾向があります。
看護師は、治療によって起こりうる副作用が何かをあらかじめ把握し、
- 「足がむくんだりする時はないですか?」
- 「傷が痛んだりはしないですか?」
- 「お肌や髪のことで気がかりなことはないですか?」
などと声をかけることが良いでしょう。
若いときは自分の体の変化を理解することができず、「怖いけど、聞くのも怖い」と感じることが多かったことでしょう。
だからこそ、あらかじめ起こりやすい副作用についてさりげなく声かけをして安心させることが大切になります。
不安や恐怖を訴えられた時の声かけ
看護師が若い子宮がん患者に今後のことを質問されたときの声かけについてご紹介します。
まずは話をしっかり聞き、受け止める
子宮がんと診断され子宮を残せなかった場合や、放射治療と抗がん剤治療が必要となった時、自分の将来について不安や恐怖、絶望を訴える言動が聞かれることがあります。
そんな時は、まずは十分に話を聞ききることが大切です。医療者はどうしても問題解決思考が働き、表面的な言葉に対して解決しようと説明しがちです。
ただ、そばにいて聴き、不安だけでなく怒りや恐怖の感情を含めて批判も非難もせずに受け止めることが、声かけをするよりも患者にとって必要となります。
何が心配なのかを整理して情報提供をする
今後の不安を訴えられ、気持ちを受け止めた後は、「色々と心配だとは思いますが、今一番何が気がかりですか?」と声かけすることが良いでしょう。
未来に対する不安や恐怖はたくさんあって当然です。しかし、今すぐ解決すべきことと、今はまだ必要でないこともあります。
その優先順位を一緒に考えるスタンスをとることが大切です。
ポイント!
抗がん剤の副作用が不安であれば、脱毛をはじめとする有害事象に対するケア方法を説明し、妊娠・出産に関することであれば、医師からどう説明を受けたのかを確認したうえで適切な情報提供を行うことが大切です。
がん治療が難しくなった時の声かけ
がんが再発・転移をした場合には、現在の標準治療だけでは対処できなくなる時期がきます。そんな時には、患者本人の気持ちを聞くことが大切です。
AYA世代は若ければ若いほど、両親の希望や意向が強くなり、患者が思いを吐き出せなくなりがちです。
ケアを通して患者自身の思いを確認する
患者が思いを吐き出せてないという時は、ケアを通して確認する声かけを意識する ことが大切です。リンパマッサージや洗髪、足浴などをしながら、
- 「この前の先生の話を聞いてどう感じた?」
- 「これからどうしたいと考えていますか?」
などの声かけをすることで、患者の思いが吐き出されることがあります。
ケアを通して話すことは、ゆっくりと時間を取ることができ、触れ合うことで気持ちを感じとることができます。
若い子宮がん患者の家族への声かけ
子供がAYA世代でがんになってしまった両親の多くは、健康な身体に産んであげられなかったという自責の念を抱いています。
その感情が、医師や医療者に向かうこともよくあることですし、治療が納得できずにセカンドオピニオンを繰り返したり、代替療法にすがったりすることも良くあることです。
また、「子宮がんは性感染症のせいでなる」といった間違った知識がある両親の場合には、「誰にも知らせたくない」「恥ずかしい」という思いを抱き、これまでの子育てについて怒りや後悔の念を抱くこともあります。
家族のこともサポートする姿勢であると伝える
家族の怒りや困惑が医療者に向かっても、それは看護師に向かっているわけではなく、家族自身が自分を許せない気持が吐き出されただけです。
- 「納得ができないのですね」
- 「辛いお気持ちが伝わってきます」
などの声かけを行った上で、一緒に今後のことを考えるサポートをさせてほしいということを伝えていきます。
まとめ
子宮がんの患者は、「性感染症」といった偏見を持たれやすいうえ、女性としての大切な臓器を失う体験を言葉にすることができず、辛い思いを抱えてしまいがちです。
子宮にがんを罹患してしまった深い悲しみによって、壁を作ってしまう患者も多くいます。
しかし、「いつでも力になる」ことができる立場であることを声かけ続けることが、患者と家族の気持ちの支えにつながります。
他の患者と同様に、普通に声をかけ続けることを大切にしましょう。