看護アドボカシーとは?

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看護アドボカシーとは?
   
齋藤 看護師
齋藤さん(看護師)

このコンテンツは、弊社が看護師免許を確認した看護師が執筆しておりますが、ご自身の責任のもと有用性を考慮してご利用いただくようお願いいたします。

よく、看護の現場において「アドボカシーが大切」というような言葉を耳にすることがあると思います。しかし、いざ意味を聞いてみると多くの人が学生時代に習ったけど忘れてしまった、アドボカシーという言葉は知っているけど意味は説明できないと回答します。

看護アドボカシーを適切に臨床で行うにはどうすればいいでしょうか。ここでは看護アドボカシーについてご紹介します。

看護アドボカシーとは

看護領域での、看護アドボカシーとは、「患者や家族が自身の権利や利益を守るための自己決定が出来るように、患者や家族を保護し、情報を伝え、支えることでエンパワーメントすること、さらに医療従事者との仲裁を行い、医療者間の調整をすることである」と定義付けています。

ちなみにエンパワーメントとは患者・家族を強引に説得したりするのではなく、自己決定できるように働きかけることとされています。

アドボカシーは元々法律用語になります

「アドボカシー」とは、もともと法律用語で

  • 「社会的弱者やマイノリティーの権利擁護・代弁」
  • 「社会環境による性差撤廃」
  • 「地球環境問題」

など幅広い分野での活動を意味する言葉として使われていました。

日本では数十年前から看護の分野でアドボカシーという言葉が使用されるようになりました

看護アドボカシーの看護師が知るべきポイント

看護アドボカシーを行う上でポイントとなるのは、看護師の知識と理解、道徳的概念です。

看護アドボカシーは、前述したことを要約すると「家族や患者の権利を守り、患者の思いを代弁するということ」になります。そのため、まず医師が言ったことを看護師がどれだけ理解できて、それを要約し、分かりやすく患者に伝えられるかがポイントとなります。

看護師の知識と理解について

患者に要約して分かりやすく伝えるためには看護師自身が病気や治療について理解できているかが重要となり医療的な知識や教養がたくさん身についている看護師ほど患者や家族が求めている情報を提供することができます。

そのため、知識の多さに加え、患者が何を求めているかを患者と話していく中で、理解できる能力も求められます。

看護師の道徳的概念について

看護アドボカシーを行う上での最も重要なポイントが、看護師の道徳的概念です。いくら知識や教養が豊富であっても道徳的概念が抜けていれば患者や家族に必要な情報が提供できないだけでなく、患者や家族に不快な思いをさせかねません。

道徳的概念が抜けている場合

例えば、もう治療に限界があり、緩和ケアに入る患者の場合、患者や家族と看護師の“死”に対する概念が違うとせっかく看護アドボカシーを行っても患者と看護師間に大きな溝ができることも考えられます。

道徳的概念が抜けていたり、医療者として死の概念を重く見ていないなどのことがあれば、患者を激高させる可能性も十分にあるのです。これらのことから看護アドボカシーを行う上での最大のポイントは看護師の人間としての技量であるのかもしれません。

ポイント!

ポイント

現在では、「看護師の正義感や人間としての技量をもってしてでも、患者や家族を擁護するには限界があるのでは?」というようなことも指摘されているようです。

看護師が適切な看護アドボカシーを行うためには

それでは、適切な看護アドボカシーを行うにはどうしたらよいのでしょうか。看護アドボカシーを行う上でのポイントを踏まえて、看護アドボカシーを適切に行う方法について説明していきます。

患者や家族とコミュニケーションを密にとり、思いを理解すること

適切な看護アドボカシーを行うためにはまず、患者や家族とコミュニケーションを密にとって、患者や家族の思いを理解していくことから始まります

もちろん、病気や治療についてどのような思いを抱えているかということも大切ですがそれだけではなく、患者の生きてきた背景、趣味や将来の展望など患者を全人的にとらえることが必要となります。

患者家族との積極的なコミュニケーションと情報収集が必要

患者とは療養生活の世話をしていく中でコミュニケーションを徐々にとっていくことができますが、家族となるとそうはいきません。面会時間中の限られた時間の中で思いを引き出していかなければなりません。

そのため、積極的にコミュニケーションを取りに行くだけでなく、場合によってはチームメイトにも情報収集を依頼し、情報を共有していくということも必要となります。

ポイント!

ポイント

患者や家族とのコミュニケーションを密に摂り、思いを理解して信頼関係を得ることが看護アドボカシーを行う第一歩となるでしょう。

患者の疾患について勉強すること

疾患は教科書や参考書に載っているものだけでは足りません。

教科書や参考書に載っているような一定の経過を踏むことは少なく、思いがけない症状が発症したり合併症を発症したり、現病とは違う既往が悪化するなんていうこともあり得ます。

そのため、教科書や参考書の知識をベースに、患者の疾患と置かれている状況について理解するということも必要となります。

道徳的な概念を身につけること

道徳的な概念は机上での勉強で身につけるのはなかなか難しいものかと思います。1番簡単で、身につく方法が経験であると考えます。いろいろな経験をしていき幅広い観点で物事を見ることで道徳的な概念が身につくのではないでしょうか。

私個人的には、病院という施設単位でこのような経験をさせてもらえましたが、

  • 個人でボランティアをする
  • 病気と闘っている患者のドキュメンタリー番組を見る
  • 病棟にいる様々な患者と関わり患者の生きてきた背景を知る

以上のことだけでも視野を広げ、道徳的な概念を身につけることができるものと考えます。

病院では道徳的概念が持てるように指導しているケースも多い

私が働いていた病院では、この道徳的概念をもてるよう幅広い経験をさせてもらえました。医療や介護を受けながら社会で頑張って生活している様子を特集したDVDをたくさん見たり、生活保護受給者や日雇い労働者がたくさん生活している居住区でボランティアをしたり、地域の住民に医療的なボランティアをするということもありました。

新卒で入職した当初は、実習生として守られた環境、理解のある優しい患者の下で医療を学ぶことができたため、視野はかなり狭かったのですが、いろいろな人と関わりいろいろな人の現状を知ることでかなり視野が広がり、いろいろな人の考え方を知ることができました

1人で限界があれば先輩看護師に相談すること

前述したように看護師の概念や義務感では限界があるという声も出ています。患者や家族のために一生懸命やることが、かえって看護師自身を苦しめてストレスとなり、看護の世界を退いてしまうという可能性もあります

そのため、自分1人で関わることがしんどい、どうしても理解しきれない部分があるという場合は先輩看護師に相談するのも1つの方法です。

補足説明!

補足事項

特に先輩看護師は看護師人生を長く生きていいるためその分、医療的知識や患者への看護についての知識も豊富です。そのため相談することで良い答えを見つけることができ、看護アドボカシーを行う上で役立つかもしれません。

医師を敵ととらえないこと

患者や家族はどうしても、

  • 自分の意見が伝わらない
  • 自分のことを分かってもらえない

以上のことを感じると医師のやっていることを疑いの目で見てしまいます。

看護アドボカシーは、患者を擁護するという意味を含んでいるため、看護アドボカシーを行う上で、患者や家族を守りすぎて医師を敵として捉えてしまう場合もあります

しかし、実際に治療を行うのは医師であり、医師を敵と捉えてしまうことで、患者や家族と医師間の関係に亀裂を入れてしまう可能性もあります。

養護するというのはあくまで患者の権利や思いを守るだけであり、医師を敵として捕らえないように注意しましょう。

まとめ

看護アドボカシーという言葉についてご理解いただけたでしょうか。

何より大切なのは、患者や家族へ適切な情報が伝えられるか、患者や家族が強要されることなく適切な選択をして医療を受けられるかです。看護師はあくまで患者や家族をサポートする、主導権は患者や家族にあるということを忘れずに看護アドボカシーを行ってほしいものです。

また、看護アドボカシーを行う上で看護師が疲弊してしまっては意味がありません。深く関わりすぎないよう、つかず離れずの関係性を保てればよいのではないかと思います。

   
執筆・監修看護師

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