このコンテンツは、弊社が看護師免許を確認した看護師が執筆しておりますが、ご自身の責任のもと有用性を考慮してご利用いただくようお願いいたします。
胃潰瘍(いかいよう)は、別名消化性潰瘍ともいわれ、消化器系の病棟だけでなくどの診療科の病棟でも見られる疾患であるかと思います。
そのため、胃潰瘍の看護をする機会はたくさんあります。
いつどこで、胃潰瘍の患者に出会っても立派に看護が展開できるよう、ここでは胃潰瘍の患者の症状、看護計画、注意点についてご紹介します。
胃潰瘍の患者の症状
胃潰瘍は精神的あるいは身体的ストレスや、胃の粘膜を傷つける物質(アルコール、薬剤、喫煙)などの摂取やヘリコバクターピロリ菌の感染によって起こります。
これらによって胃の壁を傷つけているため、傷をつけられた際の症状が出現します。
1番多いのは上腹部通です。他にも背部が痛くなる場合もあります。
また、
- 吐き気
- 嘔吐
- 胸やけ
- 腹部膨満感
- 吐血や下血
- 貧血
などが見られることもあります。
補足説明!
胃潰瘍は特に食事への影響を受けやすく食事を摂ることによって痛みが出現し、食事摂取量が多ければ多いほど痛みが長時間続く傾向があります。
看護師が注意する胃潰瘍患者の症状
胃潰瘍では、上記の症状が出ていても胃潰瘍とは思わずに食べすぎの食あたりや少し休めば治ると思って受診行動が遅れがちです。
上記の症状が見られたらすぐに精査を受けるよう助言するのも看護師の必要な看護になります。
特に注意すべき症状は出血
また、特に看護師が注意したいのは出血です。下血や吐血の有無の確認は特に行いましょう。
吐血の場合あからさまに血の色をしたものを吐いていることから気づきやすいのですが、下血の場合自分の便を水に流してしまった、またいつもより色が濃いけど気のせいかと思ってしまう方もいるので、便の色調は特にチェックしておきたい項目です。
出血がつづくと合併症も引き起こす
さらに、出血が続くことにより貧血傾向が強くなると合併症も見られやすくなります。主な合併症としては頻脈、血圧低下です。
また、潰瘍でおさまっていたものが症状が悪化し、穿孔してしまう場合もあります。
注意点!
出血が見られたらすぐに精査をするあるいは適切な治療を受ける環境を整えるようにしましょう。
胃潰瘍の患者の看護計画
胃潰瘍の患者の看護として、以下の看護計画を考えます。
♯1に治療を適切に受けれて、 症状が緩和する |
・胃潰瘍の痛みは辛く、また吐き気などの症状を伴います ・症状の苦痛を減らすことが第一の看護目標となります |
♯2食生活の再調整をすることができる | ・胃潰瘍の治療では急性期は絶食であることが多い ・症状が軽快してから退院に向けて徐々に栄養を摂っていく ・回復に向けた食事の調整ができることを目標とする |
#3再発を予防することができる | ・胃潰瘍の三大要因の1つにストレスが挙げられる ・トレスと向き合わないことにはまた再発するリスクが高い ・入院中にストレスの援助までできるよう計画に盛り込んでいく |
それでは1つ1つ詳しく説明していきます。
♯1 治療を適切に受けることができ、症状が緩和する
OP (観察項目) |
・バイタルサイン (発熱、血圧、脈拍、呼吸回数、SPO2) ・胃潰瘍症状の有無 (胃痛、嘔気、嘔吐、吐血、下血、腹部膨満感) ・内服状況 (発症までに消炎鎮痛薬やステロイド薬などを内服していたか) ・飲酒、喫煙歴 ・ストレスの有無 ・検査データ (胃造影検査結果、内視鏡検査、政権組織検査結果、便潜血検査結果、採血結果) ・点滴の内容、量と滴下速度 |
TP (ケア項目) |
・胃痛、腹部膨満感のケア(※1) ・寝衣は腹部を圧迫しないものにする ・掛物は、軽めのものとする ・ガーグルベースンを設置する ・嘔吐後は口腔ケアを施行する ・吐物は速やかに片づけて換気を行う |
EP (教育項目) |
・治療初期は絶飲食であることを説明する ・嘔吐がひどければ脱水への影響も考慮して点滴が追加となることを説明する ・嘔吐後は片付けと状態の観察をするため看護師を呼ぶよう説明する |
(※1)胃痛、腹部膨満感がある場合は膝の下に真裏を入れて膝を曲げるようにし、腹壁の緊張を軽減させる。
♯2 食生活の再調整をすることができる
OP (観察項目) |
・胃潰瘍症状の有無 (上腹部通の有無、吐血、下血の有無、腹部膨満感の有無) ・使用している薬の有無 ・医師の指示確認 ・食欲の有無 |
TP (ケア項目) |
・胃炎膜への刺激が少なくかつ栄養価の高い食品を選択する ・絶食直後は胃の負担を掛けない(※2) ・1度にたくさん食べられなければ分割にして量を減らすなどする ・水分を床頭台に設置してこまめに水分補給ができる環境を作る |
EP (教育項目) |
・胃に負担がかかりやすい食事は控えるよう説明する(※3) ・水分をこまめに摂り脱水予防をするよう説明する ・食事状態を見るためにも持ち込み食を遠慮する。 (なるべく病院食を摂取するよう説明する) |
(※2)絶食直後は胃の負担を掛けないためにやわらかくて胃に負担がかからず、油で調理されていない食事を選択する。
(※3)カフェインや香辛料、柑橘類、油を使った食事など。
#3 再発を予防することができる
OP (観察項目) |
・嗜好品の有無 ・飲酒、喫煙の有無 ・内服薬の有無とその内容 ・ストレスの有無 ・就業、就学状況 ・ヘリコバクターピロリ菌検査の結果 |
TP (ケア項目) |
・再発予防のためにパンフレット等を用いて退院指導を行う ・患者が適宜室温をしやすい環境を作る ・家族などからも情報収集を行う |
EP (教育項目) |
・飲酒、喫煙は完治するまで控えるよう説明する ・ストレスの解消法を自己にて見つけていくよう説明する ・ピロリ菌除菌のための薬の内服方法と重要性を説明する ・上腹部通や出血症状が見られたらすぐに医療機関を受診するよう説明する |
胃潰瘍の患者の看護の注意点
胃潰瘍患者は働き盛りの男性に多く、早く仕事へ復帰したい、帰りたいという一心から症状が出ていても我慢してしまう人が多く見受けられます。
実際に働いていた際にも症状が出ていても我慢をしてしまい結果重症化してしまったという例もよく見ました。
早く治したいからこそ、症状は我慢せずに訴えるよう説明しておくことが大切であると考えます。
入院はさらなるストレスを生む可能性があり、病状も悪化する恐れがある
入院中は絶飲食となり、好きな時に好きなものが食べることが出来ないことや、お酒やたばこが嗜好品である場合それらを嗜むこともできずストレスが増強しやすい環境となります。
ストレスは胃潰瘍を悪化させる要因となりますので、ストレスを緩和しながら入院生活を過ごせるような声かけ、工夫が必要となります。
補足説明!
退院後一人暮らしの人は特に退院後入院前と同様の生活ペースに戻してしまい、胃潰瘍を再発させるという方をよく見受けます。退院後も胃潰瘍の再発に気を付けた生活が無理なくできるよう退院指導も重要となってきます。
まとめ
参考文献
- 慶応義塾大学医学部付属病院健康情報サイトKOMPAS様より「胃潰瘍と十二指腸潰瘍」
- 医学書院 系統看護学講座 消化器 成人看護学5
入院中だけでなく退院後も見越した看護が必要となる胃潰瘍の看護。また、急性期を脱するのが早いため、急性期の看護を学ぶにもちょうどよい疾患となります。
ぜひ胃潰瘍の看護をしながら急性期の入院から退院までの看護の流れも一緒に学んでみてはいかがでしょうか。