このコンテンツは、弊社が看護師免許を確認した看護師が執筆しておりますが、ご自身の責任のもと有用性を考慮してご利用いただくようお願いいたします。
言語障害とは、言葉の適切な表現と理解が困難な状況を言い、失語症と構音障害の2つの種類に分けられます。
言語障害は種類によって症状が異なるため、病態生理を述べながら説明していきます。他にも、言語障害患者の看護計画と注意すべき症状なども紹介します。
失語症患者の症状について
失語症とは、言葉の理解や表現の障害のことを言い、大脳の言語領域の後天的、または器質的病変により言葉を聞き、読んで理解したり書いたり話すことが困難な状況を言います。
原因は、主に脳梗塞や脳出血などの脳疾患で男性が多いとされています。
運動性失語がある
運動性失語とは、運動言語中枢ブローカ野の障害のことです。
この運動失語の場合、単語は理解していても正しい文章を作成することが出来ない統語障害や正しいイントネーションが出来ない発音の障害、書き間違いが多いなどがあります。
相手の言っていることは比較的理解出来ますが、自分が話すときには、つっかえたり途切れたりします。また、読み書きは漢字よりもひらがなが困難になります。
感覚性失語がある
感覚性失語とは、感覚言語中枢ウェルニッケ野の障害と言います。
この感覚性失語の場合、聞いた言葉の意味を理解することが出来ない聴覚的理解の障害や言いたい言葉が出てこない喚語困難、文章の復唱が出来ない、意味不明の言葉を羅列するなどがあります。
思っているのと違う言葉が出てきてしまうなどがあり、相手の言っていることが理解出来ません。
また、簡単な単語の意味も分からなくなります。ブローカ失語とは違い、流暢に言葉は出てきますが、喋る言葉は錯語が多いです。
補足説明!
運動性失語と感覚性失語の2つが両方困難となる全失語があります。全失語は、自発語が殆どなく音読も不能ですが、慣れ親しんだ単語であれば理解出来ることがあります。
構音障害患者の症状について
構音障害とは、構音器官の運動障害のために発音が減弱・不明瞭化し言語表現が障害された状態を言います。
言語中枢から指令は出るのですが、運動中枢は障害が起きているので適切な指令は出ません。
主な原因として口蓋裂、パーキンソン病、脳血管障害、頭頚部術後があげられます。
しかし、パーキンソンや重症筋無力症は徐々に進行していくことに対し、脳血管障害や脳性麻痺は急に発症しますが進行は見られないという違いがあります。
音の置換・省略・転置がある
構音障害の症状の例は以下の通りです。
音の置換 | さとう→たとう |
音の省略 | みかん→かん |
音の転置 | おにぎり→おにりぎ |
このように、日本語にないような音の発音、正しい単語に違う単語をつけてしまうなど、その他発音速度が乱れることや、擦れ声や鼻づまりの様な症状がみられます。
読み書きが困難な失語症と違い、構音障害は比較的読み書きが出来ます。
言語障害患者の看護計画について
看護師が言語障害のある患者に対して注意しなければならない症状は、言語障害よるストレスから睡眠障害を引き起こすことです。
その結果、昼夜逆転の生活になり身体的負担が増える危険性があります。
言語障害患者の看護計画
看護目標 | ・誤嚥性肺炎を起こさず、体力を維持が出来る ・言語機能の回復や新たなコミュニケーション手段を獲得し対話が出来る ・話せないことでのストレスによる身体症状、精神症状が出ない ・周囲の協力や生活環境が整い、活動の継続や新たな活動を楽しむことが出来る |
観察項目 (OP) |
・喀痰、肺雑の有無、発熱が見られているか ・構音障害による咀嚼、嚥下機能の影響 ・失語症による集中力や摂食 ・嚥下機能の低下が見られた場合、食事・水分摂取量に影響しているか (その結果栄養状態の低下が見られているか) ・言語障害による心理的苦悩、ストレスの有無 ・疲労に対して十分な休息、睡眠がとれているか ・尿意、便意の伝達、排泄動作の自立は出来ているか ・活動への意欲があるか |
ケア項目 (TP) |
・ゼリー状、とろみのついた嚥下しやすい食事を提供する ・継続的に口腔ケアを実施し、清潔を保つ ・自力で痰を出せない場合、喀痰吸引を実施する ・疲労や注意力の低下などに配慮してコミュニケーションをとる ・状況に応じて患者自身が代替手段を選択出来るよう促す ・漢字、絵の使用、文字盤やジェスチャーを活用し話しやすい環境作りをする ・患者の真意をくみ取り自尊心を傷つけず自信に繋がる関わりを持てるようにする ・活動状況を把握と活動に対する意向を確認し、継続出来るよう支援する |
教育・指導項目 (EP) |
・体が沈み込まないよう背もたれのしっかりした椅子を用意する。 (姿勢が不安定だと発声と構音に影響があり誤嚥予防に繋がることも指導する) ・義歯、補聴器、眼鏡を調整しておく (視聴覚の変化や歯の欠損が障害を助長していることがあるため) ・活動の情報を視覚的に表示する (言語障害は聴覚的記銘力の低下があるため) (出来ているという自信に繋がるようにするため) |
言語障害患者に対して看護師が注意すべき症状
言葉が伝わらないことによる精神的負担により、疲れやすく抑うつ状態や閉じこもりなどの症状が見られます。
また、進行していくと最終的には廃用性症候群を起こす可能性があります。
さらに、運動器官の機能低下により摂食嚥下障害を起こす危険性があり、嚥下時にむせこみやすくなったり、上手く飲み込めなくなったりします。
場合によっては、誤嚥性肺炎になる恐れがあるので、食事介助の際は慎重に患者のペースに合わせ、食事の前に喀痰吸引などを行い未然に防ぐ必要があります。
看護計画の注意点について
患者は、障害による苦しみや周囲の無理解、自分が言語的に説明できないといった苦しみから疎外感や孤独感を抱いています。
また、患者は自分が抱える苦しみが他の人に伝わらない苛立ちから、焦ったり不安定になったりしがちなので看護師は、温かく適切な対応が必要です。
患者の自尊心を傷つけないこと
言語のリハビリを行う際は、患者が話しやすい環境を作ることが重要となり、日々の生活の中で患者の自尊心を傷つけることの無い様に楽しく実施できるよう心掛ける必要があります。
患者が上手く言葉を出せない時に、聞き手が言いたいことを理解し、先回りして次々に答えを言ってしまったり、急に話題を変えたりしてしまうと患者は急かされたと感じるでしょう。
それは、患者が自分で発することが出来ない不全感や失望感をもたらしてしまうこともあるため、注意が必要です。
ポイント!
文字盤を使用するなどして焦らずゆっくりと、リハビリを行いましょう。
患者の非言語サインを見落とさないこと
患者は、障害があることによって、やりたい活動を諦めていることがあります。
患者の希望や活動歴を元に活動を継続し、心豊かに1日を過ごせるように援助していくことが重要となります。
排泄など身の回りの訴えが上手く出来ない時には、ジェスチャーや表情などの非言語的サインも見落とすことの無い様に注意していきます。
ポイント!
患者1人1人によって言語障害の症状は様々なので、看護者間で関わり方を統一して混乱を招くことの無いようにします。
まとめ
参考文献は以下の通りです。
- 生活機能からみた老年看護過程 第3版 医学書院
- リスクを防ぐ臨床看護ガイダンス 医学芸術社
言葉は、生活に欠かせないものなので自分の思ったことが話せず書くことも出来ないことは、障害を持たない人にとって想像出来ないような苦痛とストレスを伴うものでしょう。
看護師は、患者の訴えを傾聴しながら最終目標として患者が話したいという思いをくみ取り、周囲の協力や性格環境が整うことで、これまで築いてきた活動の継続や新たな活動を楽しむことが出来るきっかけになるでしょう。
言語障害患者と関わる看護師は、是非参考にしてみて下さい。