このコンテンツは、弊社が看護師免許を確認した看護師が執筆しておりますが、ご自身の責任のもと有用性を考慮してご利用いただくようお願いいたします。
脳脊髄液(略して髄液)は無色透明な液体で脳室の脈絡叢から作られており、脳と脊髄を循環しながら静脈に吸収されます。
ここでは、その髄液に関わる検査や治療のために行われる「小児の腰椎穿刺」について説明します。
小児の腰椎穿刺の目的
小児の腰椎穿刺の目的は、以下3つです。
- 中枢神経系の感染症診断や治療効果の確認
- 脊髄が圧迫されていないかの確認
- 髄液の通りがスムーズかどうかの確認
それぞれ詳しく見ていきましょう。
中枢神経系の感染症診断や治療効果の確認
子どもは、髄膜炎など中枢神経系の感染症に罹患しやすいため、腰椎穿刺による髄液検査は重要です。
細菌性髄膜炎の診断としては、外観は透明またはやや混濁しており、白血球数(主に多核球)の増加・ブドウ糖の減少・タンパク質・髄液圧の上昇が見られます。
ウイルス性髄膜炎の診断では、外観は水様透明で、白血球数(主にリンパ球)の増加・タンパク質の軽度上昇・髄液圧の上昇が見られます。
髄膜炎で治療したときには、治療の効果を確認するために約2~3週間後に再検査を行います。
脊髄が圧迫されていないかの確認
脊髄腔内に造影剤を注入することで、脊髄が圧迫されていないか調べることができます。
また、がん性髄膜炎の小児患者であれば、腰椎穿刺を行った後、抗がん剤を注入し治療することがあります。
髄液の通りがスムーズか確認
髄液の通りがスムーズかどうか確認する検査は、「クェッケンシュテットテスト」と呼ばれ、クモ膜下腔に狭窄や閉塞がないか確認します。
まず、両側の経静脈を圧迫したら10秒程度保持し、その後外します。この一連の流れの中で、髄液圧をチェックします。圧迫後、髄液圧の上昇があれば正常ですが、髄液圧の上昇がなければクモ膜下腔内の閉塞が疑われます。
小児の腰椎穿刺の手順
小児の腰椎穿刺は、以下の流れで検査を行います。
- 腰椎穿刺の準備・検査説明
- 体位の固定
- 刺入部の消毒・保護
- 医師による腰椎穿刺
無音の中での処置は患児も緊張するため、音楽を流しながらリラックスして検査に臨んでもらいましょう。
また、腰椎穿刺検査の前に同意書のサインをチェックすること・鎮静薬を使用する場合は、固形物は4~6時間前・水分は2~3時間前から絶飲食することが必要なので注意してください。
1.腰椎穿刺の準備・検査説明
検査室の室温をチェックして適温にしたら、防水シーツをベッドに敷きます。次に、子どもと家族に検査についての説明をします。検査時間は20~30分程度かかることを話し、排泄を済ませてもらいます。
乳幼児でオムツをしている場合は新しいものに交換しておきます。その後、処置室に必要物品を準備し、ワゴンの上に「腰椎穿刺セット」を置いたら清潔操作で広げます。
子どもの腰椎穿刺に必要な物品
子どもの腰椎穿刺に必要な物は以下の通りです。
- 防水シーツ
- 滅菌手袋
- 腰椎穿刺セット(滅菌ガーゼ・脳圧測定用ガラス棒または延長チューブ・滅菌スピッツ2本・有窓滅菌シーツ・滅菌鑷子)
- 滅菌綿球・消毒液(ポピドンヨード・ハイポアルコール)
- 穿刺針(スパイナル針)
- 六注射針23G
- 三方活栓
- 30cmものさし
- 絆創膏・膿盆
観察・急変時には、基本の準備物に加え、パルスオキシメーターと吸引・酸素吸入の準備も必要です。
2.体位の固定
腰椎穿刺の準備が済んだら、次は体位固定をします。患児の背中がベッドの端にくるように寄せて、横を向いて寝る姿勢を取ってもらいます。次にエビのように首と膝を曲げて、おへそを覗き込むような体位にします。
乳幼児の場合は、オムツの背側の上縁を幅広テープで覆うようにとめ、便や尿によって汚れないようにしておきましょう。
患児の肩と右腕を保持する看護師・処置台に上がり、患児の左側腹部前方から右手の甲を上にして差し入れ、手首を直角にして前腕全体で刺入部が安定(ヤコビー線が垂直)するように固定し、左手で腰部下を抑え、両足で患児の足を動かないようにはさむ看護師に役割分担して固定します。
患児の協力が得られないときには、鎮静薬を使用することもあります。
ポイント!
点滴ルートが下敷きになっていないか、絡まっていないかチェックしておきましょう。
3.刺入部の消毒・保護
体位の固定まで済んだら、消毒と保護をすることが必要です。消毒と保護では、ポピドンヨードで刺入部を2回消毒した後、ハイポアルコールで色を落とします。
次に、滅菌手袋を着用した後、有窓滅菌シーツの穴から穿刺部が見えるようにかけます。このとき子どもは体動が激しいため、有窓滅菌シーツが動かないように介助者の身体にテープで固定します。
その際、刺入部周囲が汚染されないように、シーツの端にテープを貼るようにしましょう。
4.医師による腰椎穿刺
準備と体位固定、消毒と保護が全て済んだところで医師による腰椎穿刺を行います。医師が第4腰椎と第5腰椎の間のクモ膜下腔に穿刺針(23G)を刺します。
髄圧を測定する場合は、内針を抜いて三方活栓を接続し、ガラス棒を立てます。延長チューブで測定する場合は、チューブを垂直に上げた横に30cmものさしを平行に持ち、測定します。その際、チューブに触らないように注意しましょう。
その後、滅菌スピッツに髄液を採取し、終了したら滅菌ガーゼで圧迫止血します。最後にポピドンヨードで消毒したら、滅菌ガーゼをあてテープで固定します。
介助者は患児をあやしながら、意識レベル・呼吸状態・嘔吐・けいれんの有無・下肢の知覚/動かし方に異常がないかなど確認しながら検査を進めます。
髄液圧の基準は、新生児10~80mmH2O・乳幼児40~100mmH2O・学童60~180mmH2Oが標準です。
腰椎穿刺の禁忌
頭蓋内圧亢進症状があるときは、腰椎穿刺を避けましょう。なぜなら、頭蓋内圧亢進症状があるときに腰椎穿刺を行うと急激な脳圧低下が起こり、脳ヘルニアを引き起こす恐れがあるからです。
また、穿刺部の周辺に皮膚感染症があるときは、細菌が髄腔内に入ることで髄膜炎を起こすことがあるため注意が必要です。
小児の穿刺後安静の注意点
腰椎穿刺の後、安静にする必要がありますが、ここでは以下の2つに気を付けましょう。
- 水平な体位を保つこと
- 安静解除まで絶飲食を徹底すること
観察のポイントは、バイタルサインをはじめ、穿刺部の滅菌ガーゼが血液や髄液で汚染されていないか、意識レベル、呼吸状態、頭痛・悪心・嘔吐の有無、下肢の知覚・運動異常がないかチェックすることです。
鎮静薬を使用したときには、SpO2モニター値を引き続き観察します。
看護記録には、実施した時間、髄液の性状・髄圧、検査中とその後の患児のようす、穿刺部位の状態など記載しましょう。
水平な体位を保つこと
穿刺後1~2時間は、急激な頭蓋内圧低下を起こさないようにするため、枕を外して仰向けで水平な退位を保ち、安静にします。安静の必要性を本人・家族にも説明することも看護師の大切な役割です。
注意点!
抱き上げる時は、頭を上げないように注意しながら移動しましょう。
安静解除まで絶飲食
穿刺後1~2時間は、飲んだり食べたりすると、嘔吐を誘発し、窒息することがあるため飲食禁止となります。絶飲食の必要性を本人・家族にも説明します。安静が終了したら、穿刺部のガーゼを絆創膏に代えましょう。
補足説明!
どうしても喉がかわいているときには、口元を水で湿らせてあげるようにしましょう。
まとめ
参考文献は以下の通りです。
腰椎穿刺を受ける子どもの看護について説明しました。
腰椎穿刺の目的には、「中枢神経系の感染症などの診断や治療効果の確認」、「脊髄腔内に治療薬や造影剤を注入」、「髄液の通りがスムーズかどうか確認」という3つがあります。
検査前の準備では、環境を整え、本人や家族の不安に寄り添うようにしましょう。体位固定時は患児の表情や言動に注意し、声かけを忘れないようにすることが大切です。
穿刺後安静の注意点としては本人だけでなく、家族にも「水平安静の必要性」「安静解除まで絶飲食」ということを理解してもらいましょう。また、検査後に急変する可能性もあるため、観察点をおさえておきましょう。