このコンテンツは、弊社が看護師免許を確認した看護師が執筆しておりますが、ご自身の責任のもと有用性を考慮してご利用いただくようお願いいたします。
厚生労働省が発表した資料によると、平成24年の時点で全国の65歳以上の高齢者の約15%、人数にしておよそ462万人が認知症を有病している可能性があるとしています。
高齢化が着々に進んでいる日本では、今後、認知症の有病者がもっと多くなることが予測されています。
つまり、私達が看護師として働く現場で、認知症患者と出会う可能性は今よりももっと多くなってくるということとなります。
認知症患者との関係の築き方に悩んでいるという看護師も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、認知症患者への声かけをする上で看護師が押さえておきたいポイントを、介護老人保健施設の認知症専門のフロアで働いた経験のある看護師目線からご紹介します。
教科書や学校で習う声かけの実際の効果は?
教科書や参考書に書かれているような声かけや、学校の授業で教わるような認知症患者への声かけは実際に効果があるのかということは、疑問に思う看護師は多いでしょう。
賛否両論あるでしょうが、個人的には効果てきめんであるとは言えません。
症状によって声かけを変える必要がある
もちろん、学校で学んだことや参考書に書いてあるような声かけが、ばっちり効果ありという患者もいます。
しかし、人それぞれ有している疾患や個性、ここまで生きてきた生活背景が違うにも関わらず、同じ声かけをしていたからといって効果があるかというとそうではないでしょう。
認知症患者への声かけはその患者が認知症によってどのような症状が出ているかによって変えていくことがベストです。
そこで、以下では認知症患者の症状別声かけをご紹介していきます。
怒りっぽい認知症患者への声かけ方法
まず、認知症患者の中でも特に多いのが怒りっぽい認知症の患者です。
特に脳神経系の病気により認知症となってしまった患者には、こういったタイプの人が多いのではないでしょうか。
以下で怒りっぽい認知症患者への声かけ方法をご紹介します。
丁寧な言葉で声かけをする
怒りに火をつけるときの理由は大体自分の思い通りにいかなかったり、看護師の対応が気に食わなかったりする時が多いです。
そこで、あえて丁寧に声かけをすることをお勧めします。
丁寧語を駆使し、下から丁寧に「~させて頂いても良いでしょうか」などというと、多くの場合指示を聞いてくれます。
認知症の有無に関わらず、丁寧に接せられて嫌な気分をすることはありません。つまり、怒りのポイントを刺激しない声かけがこの丁寧な声かけなのです。
ポイント!
丁寧な声かけは少し面倒に感じるかもしれませんが、怒りを買わずにスムーズに指示ができることや、自分の丁寧語の練習になると考えれば、面倒にも思わなくなるでしょう。
馬鹿にしたような声かけをしない
認知症患者の声かけでやってしまいがちなのが、子どもに接するかのような声かけや、どうせわからないだろうと言わんばかりの声かけです。
他のタイプの認知症患者だと、こういった声かけをされていること自体が理解できていないことが多いため、いけないことではあってもそうような声かけをしていることがばれません。
しかし、怒りっぽいタイプの認知症患者の場合はなぜだか、このような声かけをされていることを理解できている場合が多く、怒りに火をつけてしまいます。
1人の人としての尊厳を忘れず、馬鹿にしたような声かけをせずに極力丁寧に接しましょう。
同じことを繰り返し言わない
怒りっぽい認知症患者への声かけを丁寧にしたにもかかわらず怒らせてしまった原因として考えられるのが、同じことを繰り返し言っているということです。
看護師にとっては何回も言わないと分からないだろうと思っての行動ですが、認知症患者からすると同じことを繰り返し言われることで混乱してしまうようです。
怒りっぽい認知症患者に声をかけるときは言いたいことをまとめておき、バシッと一発で決めるようにすると怒らせずに会話が進むでしょう。
子どもに戻っている認知症患者への声かけ方法
怒りっぽい認知症患者と同じくらい結構な確率で出会うのが、看護師や娘を「お母さん」と呼び、子どもに戻ってしまっている認知症患者です。
以下で子どもに戻ってしまっている認知症患者への声かけの方法をご紹介します。
敬語でなくタメ口で優しく声をかける
子どもに戻っているため、強く声をかけるのは逆効果です。
また、高齢者であるからといって年相応の言葉で接しても、子どもに戻ってしまっているため理解されなかったり混乱させてしまったりする場合もあります。
高齢者=敬語で接するというのが一般的かもしれませんが、子どもに戻ってしまっている認知症患者にはあえてタメ口で普通に会話するように声をかける方が効果的なことが多いです。
「~しましょう」など一緒にやろうと声かけをする
なにかやってほしいことがある時に、「~してください」というような自力で何かをやるように促す声かけは、子どもに戻っている認知症患者の場合あまり効果が無いでしょう。
むしろ「~しましょう」と看護師と一緒に何かをやるように声かけした方が、一緒にやると同調して取り組んでくれることが多いです。
例えば、
- 歯を磨かなければ「一緒に歯磨きしましょう」
- 食事の拒否をしたら「一緒にご飯食べよう」
などと声かけをすると、普通に声かけるよりもついてきてくれることが多かったです。
かんしゃくを起こしたら理由を聞く
前述した怒りっぽい認知症患者よりも頻度は少ないものの、子どもに戻っている認知症患者も怒りやすいように感じます。
理由は、子どもと同じで自分の思い通りにいかずにかんしゃくを起こしているような状態となるためです。
そのため、なぜ今怒っているのか、自分はどうしたらよかったかなどを聞いてとことん患者から意見を出してもらうようにすると案外すんなりと怒りが静まります。
補足!
子どもに戻っているということから、怒っている理由も大人に比べてたいしたことない場合やすぐ解決できる場合が多いため、何も理由を聞かずに動かそうとするよりもよっぽど効果的であるでしょう。
若い頃に戻っている認知症患者への声かけ方法
子どもまでと言わなくても、今の年齢ではなく確実に自分の若いころに戻っている認知症患者への声かけの方法をご紹介します。
患者が戻っている世代に合わせた声かけをする
若い頃に戻った認知症患者に効果的な声かけが、患者の戻ってしまった世代に合わせた声かけです。
多くの患者が結婚する前の働き盛りの頃や結婚後まだ子どもが小さかったころ、大体20代に戻ります。そのため、その時の世代に合わせた声かけをすると良いでしょう。
患者の生きてきた背景を踏まえて声かけする
認知症患者の生きてきた背景を知ることで、関係性がとりやすくなります。
自分が経験した例で言うと、
- 結婚直後の家事をバリバリとこなしていた時代に戻っている認知症患者であれば、家事動作のリハビリを頼む
- もともと農家だった認知症患者であれば、園芸系のリハビリやお花のお世話を頼む
- 教師や保育士であった患者ならば、他の患者の話し相手などを頼む
など声かけすると、患者自ら進んで行ってくれます。
認知症患者の戻ってしまった世代に合わせた声かけや認知症患者の生きてきた背景を知ることはその患者の可能性を最大限に引き出し、声かけに活かすことができるものと考えます。
患者が戻っている年齢と看護師自身の年齢の関係に注意
注意したいことが、患者が戻っている世代の年齢と看護師自身の年齢との関係です。
例えば、20代に戻っている患者に対してそれ以上の年齢の看護師が敬語で話しかけたりすると、「なぜ年上なのに自分に敬語で話しかけるんだ」と怒りだす人もいます。
このことからもその人が戻っている世代と自分の年齢に合わせた声かけは効果的です。
患者をその世代の頃の愛称や敬称で呼ぶ
認知症患者が戻ってしまった世代に合わせた声かけで重要なことが、その頃の愛称や敬称で呼ぶということです。
例えば結婚前に戻っている患者に今の名字で呼んでも反応してもらえないことがあります。
また、その世代の頃に呼ばれていたニックネームなどがある人では、その呼び方をするといつも以上に良い反応がもらえるということもあります。
戻っている世代が察知できたら、家族などからさりげなく情報収集しておくと声かけに活かすことができるでしょう。
方言などが合わせられるとなお効果的である
地方から出てきている認知症患者の場合、戻った世代がその地方にいた時であり、標準語よりも方言で話した方が反応が良いという場合もあります。
例えば、地方にいる頃に戻ってしまった患者は、標準語で話しかけても「何を言っているか分からない」の一点張りで会話が成立しませんでしたが、たまたま同じ地方出身の看護師が方言で話すと会話が成り立ちました。
その患者は同じ言葉を話す看護師に親近感を覚えたのか、以後その看護師の言うことならなんでも従い、また看護師に自分の思いを表出できるようになったのです。
ポイント!
なかなか方言が一致するということは難しいのですが、もし地方出身の看護師が多い病院であれば試してみる価値はあります。
さっき言ったこともすぐ忘れる認知症患者の声かけ方法
表立って認知症と取れる症状はないものの認知症という診断がついている患者や、直前に言ったこともすぐに忘れてしまうという患者に効果的な声かけ方法をご紹介します。
「さっき言った」は言わない
直前に言ったことを忘れてしまっている認知症患者への声かけに対して、「さっき言った」は避けましょう。
理由として、
- 「自分はそんなにぼけてしまったのか」と患者自身を落ち込ませてしまう
- 逆に「自分をぼけ老人扱いするな」と怒らせてしまう
ということが挙げられます。
直前に言ったことは忘れてしまっていても他の面はしっかりとしている場合が多く、その人の人格を否定するようなことになってしまうため、「さっき言った」という言葉は言わないことがベターです。
同じことを同じ言い回しで言い続ける
何回も同じことを聞かれるからと、聞かれるたびに違う言い回しで患者に説明する看護師がいます。
しかし、患者は本当にきれいさっぱり忘れている場合と、断片的に覚えてはいるという場合があるため、同じことを聞かれたら同じことを答えるという単調な返しで問題ないでしょう。
前者であれば違う言い回しでも問題ないでしょうが、後者である場合は違う言い回しとすることで逆に混乱を招いてしまう可能性があるためです。
脚色されて覚えられるため患者を尊重した声がけを考える
認知症患者への声かけの中で、最もその人を尊重した声かけをする必要があると考えるのが、この直前のことを忘れてしまうという程度の認知症患者でしょう。
看護師からショッキングな声かけをされた場合は、その印象が強烈なのか患者は大体覚えており、むしろ激しく脚色されて覚えられていることが多くなります。
またその人となりを理解した上での声かけを行った人も、同様に脚色されてとても良い人と捉えられていることが多いです。
悪い人と捉えられるよりも良い人と捉えられていたほうが、今後の看護もやりやすいでしょう。
補足!
あえてとても丁寧な声がけだと、それはそれで違和感を持つという人もこのタイプの患者には多いようです。
その患者を理解した上で、どのくらい丁寧に声をかけるかを考えて声かけを行うことが良いでしょう。
まとめ
認知症にも様々なタイプの患者がいます。
認知症の度合いに合った声かけをすることが、認知症患者へ効果的な声かけをするポイントであるでしょう。
また、そのために問われるのが看護師の観察力とその患者を理解する想いです。
そして、認知症患者への声かけは経験年数や看護師としての技術力などは関係なく、どの世代であってもできることであるでしょう。
患者の状態を見極めて声かけをすることで、認知症患者への看護が楽しく思えてくるかもしれません。