このコンテンツは、弊社が看護師免許を確認した看護師が執筆しておりますが、ご自身の責任のもと有用性を考慮してご利用いただくようお願いいたします。
患者や家族は、がんが疑われて検査を行っている時から、“がんかも知れない”という不安を胸に抱いています。
その結果を外来や病棟で医師から聞かされる前は、「きっと何もない」「悪いことを言われる」気持ちで揺れ動いていることが多いものです。
がんと告知されたばかりの患者とその家族に対する看護師の声かけに正解はありませんが、少しでも寄り添うことはできるでしょう。
ここでは、がんを告知されたばかりの患者とその家族への看護師の声かけについてご説明します。
患者や家族が検査結果を聞く前の言葉がけ
患者や家族が検査結果を聞く前に、看護師が心がけておきたいことをご紹介します。
検査続きの患者の体調を気遣う
患者や家族は、診察前はとても緊張しています。そんな緊張を、検査を受けたことや、体調を気にかけてくれる看護師の声がけは、安心感をもたらします。
「検査が続いて大変でしたね」など、検査を受けたことへの労いの言葉を医師の診察前に声がけることをおすすめします。
がんが告知される前に、検査を受けたことをねぎらう、体調を確認することも、患者の不安に寄り添うきっかけとなる言葉がけになります。
ポイント!
「結果はどうでしたか?」と聞かれることが怖いと感じてしまい、声をかけられない看護師も多いようです。
しかし、患者さんやご家族はもっと不安な気持ちを抱えているということを理解しましょう。
がん告知の場面に同席する時の言葉がけ
医師の診察時、がん告知場面での患者や家族に寄り添う、看護師の言葉がけについてご説明します。
医師よりも患者や家族の近くに座る
がん告知の場面に同席するときは、医師の近くよりも、患者や家族の近くに座るように心がけます。これは、言葉がけ以上に患者や家族の心理に影響します。
私は、がん告知を受ける患者や家族が見上げた時に、自然と私の姿が目に入る場所に座ることを意識しています。
告知の衝撃が大きく、医師を見ることができない時、看護師がいることは救いになることが多いためです。
患者と家族の表情や態度に応える
がん告知中にできる言葉がけは少ないでしょう。だからと言って、医師と患者の会話を一語一句記録することに集中する看護師の姿はとても冷たい印象を与えます。
記録に集中するのではなく、
- 患者と家族の表情の変化に気が付く
- 涙ぐんでいる時にはティッシュを差し出す
- 一言も言葉を発しない時には「お話を続けて聞くことができますか?」と言葉がけをする
などのことが、看護師ができる言葉がけであり非言語的コミュニケーションとして患者や家族の支えになります。
がん告知直後の言葉がけ
患者や家族にがん告知をした直後の看護師の言葉がけについてご説明します。
診療室で聞いた内容を理解できているか確認する
がん告知を受けた患者や家族の看護師が行う声がけとしては、
「先生から説明された内容で、何かわかりにくかったことはありませんでしたか?」
と、患者と家族が診察室で聞いた内容を整理できる声がけを行うことが、話しかけやすい言葉がけになります。
がん告知をされた患者や家族は動揺している
がん告知をされた患者や家族は、1時間程度医師から今後の治療スケジュールを説明されたとしても、「がんと言われた」「手術しなきゃダメだといわれた」程度しか覚えていないものです。
たとえ告知された時には落ち着いており、医師への質問をしていた人であっても、同じような心理機構が働いています。
「大変でしたね」や「大丈夫ですか?」と声がけしなければと考えがちですが、「何が大変なのか」と逆に気持ちを逆なですることもあります。
相手が気持ちを言葉にしやすくするためには、看護師の価値観が入らない言葉かけを最初に行うことが、相手を安心させることにつながります。
周囲に人がいない場所を選んで声がけする
がん告知を受けた直後は、患者や家族の中には涙ぐんでしまう方もいます。
そんな時に看護師が優しく声をかけると、我慢していた気持ちが緩んで更に感情があふれてしまうこともあります。
告知直後の患者や家族は周囲の環境まで気持ちが回らないことが多いため、声がけをする看護師がプライバシーに配慮することが大切です。
患者や家族の気持ちを言葉にしてもらうための声がけをする
がん告知をされた直後、「先生の説明を、どのように理解されましたか?」と声がけることも、看護師に行ってほしい声がけの1つです。
看護師のほうから「●●と説明されましたよね」と切り出すよりも、
- 「ご病気をどのように理解されましたか?」
- 「医師からこれからのことを、どのように説明されましたか?」
と、患者さんやご家族がどのように理解し感じているのかを受け止めるための声がけを意識することが大切です。
患者や家族は必要のない不安を抱いている場合がある
患者や家族は、医師がどんなに丁寧に説明を行ってもその内容は理解できていません。それは、医師や私たちが使用する医療用語を知らないからです。
そのため患者や家族は、自分が分かる言葉だけを頼りに、現状を理解しようとします。
そのため、「何も治療をしなければあと半年」という言葉も、「あと半年」という言葉だけが残ってしまい、本来なら必要のない不安を抱くことになります。
患者や家族の不満や不安を否定しない声がけをする
告知を受けた患者や家族のなかには、医師は更に全身の検査を行ってから治療方針を決めると説明したにも関わらず、「早く手術してほしいって言ったのに聞いてくれなかった」と不満を口にする方もいます。
そんな時の声がけとしては、「病気が悪くならないかと心配なのですね」と声がけをして、気持ちを受け止めることが大切です。
まずは、その不満や不安を受け止めたうえで、医師が説明した言葉を、分かりやすく伝え直すようにします。
そして、「判らないことや、聞きたいことをメモしておくと良いですよ。私も力になります」と声がけすることも安心につながります。
補足!
患者は、治療をしてくれる医師に文句や不満を言うことができません。
だからこそ、看護師には、医師に伝えることができなかった不安を、不満という形で言葉にするのです。
焦らなくて良いこと伝える声がけをする
がんは、まだまだ「治らない病気」というイメージが強く、患者や家族は「これからどうすればよいのか」と不安を口にすることがあります。
そんな時は、
と声がけをするようにします。
がん告知直後は持っている情報が少なく、焦りが先立ちます。
だからこそ、「急ぐ必要はないこと」「気持ちの整理をすること」を優先してほしいと伝える看護師の言葉がけが大切です。
がん告知をされて治療開始までの言葉かけ
がん告知をされてから治療開始まで、患者と家族に寄り添う言葉かけについてご紹介します。
患者の体調を気遣う声がけをする
がん告知されたばかりの患者のなかには、食欲が低下したり、イライラしたり、不眠を訴えたりする方が意外にいます。
そのため、看護師のほうから「最近、十分に眠れていますか?」「食事は食べられていますか?味はしていますか?」というような、体調を気遣う言葉がけが必要なのです。
がん患者の中には、適応障害や抑うつを抱え込んでしまう方も多くいます。その辛さを分かってくれる人がいることだけでも、患者の気持ちの支えになります。
適切な情報提供のための声がけをする
がん告知を受けた直後の頃は、患者も家族も頭に浮かぶ知識や情報に振り回されてしまい、次々と質問ばかりしてくる方がいます。
そんな時、一つ一つに答えるのではなく十分に話に耳を傾けたうえで、今患者と家族に必要な情報は何かについて考えることが大切です。
これからの治療の流れが不安な場合には病気についての冊子などを手渡し、まずは目を通してもらってから「分からないことがあればご説明します」と声がけする方が、患者や家族自身が考える時間を作ることができます。
医療費や仕事のことが心配である場合には、
- 「治療が決まってから、一緒に考えましょう」
- 「今の段階では、また必要ないと思いますよ。普段通りに過ごして問題ないですよ」
というように伝えることで、患者さんやご家族も「今は、ふつうに過ごせばよいのだ」と安心することができます。
ポイント!
それでも質問をしてくる時は、不安が強いことの表れでもあります。
不安な気持ちを受け止めたうえで、がん情報支援センターについての情報提供や、病院内でのがん関連の認定・専門看護師に相談して対応してもらうことも大切です。
まとめ
どんな言葉がけが良いかよりも、「気持ちに寄り添う」「いつでも声をかけても良い姿勢を見せる」ことが大切です。
患者にとって、告知を受けたときにそばにいてくれた看護師のことはとてもよく覚えています。
そして言葉がけそのものよりも、「一緒にいてくれた」「気遣ってくれた」ことが嬉しかったと話してくれます。
告知を受けたことで衝撃を受けているのは、患者と家族です。その気持ちを理解したうえで、気持ちが吐き出せる環境と声がけを大切にしてください。