このコンテンツは、弊社が看護師免許を確認した看護師が執筆しておりますが、ご自身の責任のもと有用性を考慮してご利用いただくようお願いいたします。
このページでは現役の看護師の方に向けて、膵臓癌患者の看護、注意すべき症状、看護計画、看護の注意点、求められるスキルについてご紹介していきます。
膵臓癌の患者の症状
膵臓癌の初期症状は、胃の不快感や食欲の低下などはっきりと診断できないような、不定愁訴といわれる症状です。膵臓は体の深部に位置しているので症状が出にくいためです。
そのため、初期症状から膵臓癌であると診断することはとても困難です。
膵臓がんの患者の多くは、進行しないと症状が現れにくく、診断された段階ではステージⅣである場合も少なくありません。進行した膵臓癌の症状は、疼痛、体重減少、黄疸が3大症状で、その他にも悪心・嘔吐、便通異常、腹部膨満感、腹水などがみられます。多く現れる3大症状について説明していきます。
疼痛
疼痛は、主膵管が腫瘍に圧迫されて狭窄や閉塞が起こる事で膵液が膵管内に貯留することで起こります。
痛みは心窩部から背部にかけての鈍痛であり、腫瘍が後腹膜神経叢に浸潤してくると、激痛となります。
体重減少
体重減少は、疼痛が起こるメカニズムと同様に、膵管が詰まるために膵液が十二指腸に流れる事が出来ず、消化不良を起こしてしまうことから現れます。
黄疸
膵臓癌は癌ができる部位によって症状は異なります。最も症状が現れやすいのは膵頭部癌です。
膵頭部には、胆管が通っているため、腫瘍が胆管を圧迫することで胆管が狭窄・閉塞し黄疸が現れます。
看護師が注意すべき膵臓癌患者の症状
初期症状では膵臓癌であることは分かりづらいですが、糖尿病の既往歴をもつ人が膵臓癌を発症することが多いため、外来で初期の症状を訴える患者に対しては、糖尿病の有無を確認することが大切です。
突然糖尿病を発症には注意
逆に突然糖尿病を発症した場合にも注意が必要です。膵臓は血糖をコントロールする役割があるので、膵臓癌が発症し、膵臓が血糖コントロールするホルモンを正しく分泌できなくなった時に、糖尿病となります。
補足説明!
糖尿病の家族歴がなかったり、肥満など生活習慣の乱れなどの原因が当てはまらなかったりする場合に膵臓癌の初期症状がみられた場合には、膵臓癌を疑うなどのアセスメントをしていくことが必要です。
膵臓癌患者の看護計画
膵臓癌の治療は、切除可能であれば外科的治療となるが、早期の発見が難しい上に、膵臓の臓器が小さいために周囲の臓器やリンパ節に転移しやすいです。
そのため、手術ができない場合も多く、切除率は20~40%である上に切除後の再発率も高いと言われています。
治療は内科的治療で抗がん剤や放射線治療が行われることが多いです。
また終末期の場合は、疼痛コントロールが中心となるので、それらへの支援が看護師の役割となります。
看護目標:疼痛が緩和できる
観察項目 (OP) |
・バイタルサイン ・痛みの程度 ・疼痛部位 |
ケア項目 (TP) |
・指示された鎮痛剤の使用 ・安楽な体位を取る ・足浴やマッサージなどリラックスできる方法を把握し実施していく ・必要に応じ、鎮痛剤の変更や増量を医師に相談する ・痛みに対する不安な思いを傾聴する |
教育項目 (EP) |
・自分で行う事が出来るリラックス方法を説明する |
看護目標:抗がん剤の副作用による苦痛が緩和される
観察項目 (OP) |
・投与する薬剤・量 ・バイタルサイン ・発熱 ・倦怠感 ・空咳や息切れ ・悪心・嘔吐 ・浮腫 ・皮膚の状態 (色素沈着、ただれ、発赤) ・脱毛の状態 ・しびれ ・排便の有無・便の状態 ・口内炎や尿路感染 ・血液データ (貧血状態、易感染状態、肝機能、腎機能など) |
ケア項目 (TP) |
・マスク着用や手洗い・うがいなど感染予防を促す ・水分摂取を促す(便秘や腎機能の悪化を予防) ・必要時、医師の指示に応じて制吐剤の使用を考慮する |
教育項目 (EP) |
・症状が現れた時は、医師や看護師に伝えてもらうよう説明する ・治療をおこなう際に、副作用について説明する ・面会に来た人にもマスク着用等の感染予防の必要性を説明する ・皮膚の清潔保持や保湿の必要性を説明する ・脱毛などに対する不安な気持ちに寄り添い、必要に応じてウィッグなどの説明をおこなう |
看護目標:治療や腫瘍による食欲低下で栄養状態が悪化することを防ぐことができる
観察項目 (OP) |
・食事摂取量 ・疼痛の程度 ・悪心・嘔吐 ・下痢 ・顔色や爪の状態 ・血液データ (栄養状態、免疫能データ) ・体重の変動 |
ケア項目 (TP) |
・食事がしやすい環境を整える ・体調が良い時に少しずつでも摂取できるようにする ・栄養士とともに食欲が増進する食事内容を考える ・患者本人の好きな食べ物が食べられるよう家族に協力を得る ・口腔ケアをおこない口腔内の清潔を保持する ・必要時、中心静脈カテーテルの挿入について医師に考慮してもらう |
教育項目 (EP) |
・患者本人に、食べやすい食事形態や時間帯等を相談する ・栄養補助食品などを試してみると良いことを説明する ・消化の悪い物は避けてもらうよう説明する |
看護目標:治療や予後に対する不安を表出することができる
観察項目 (OP) |
・バイタルサイン ・表情や言動 ・食事摂取量 ・睡眠状態 ・家族の協力やキーパーソンの有無 ・疾患や治療に対する理解度 |
ケア項目 (TP) |
・話をしやすい環境を整える(個室の確保や気持ちが落ち着いている時間帯の把握) ・コミュニケーションを図り、不安な思いに傾聴する ・疑問に思う事があれば、その都度医師からも説明してもらえるように考慮する ・散歩やマッサージなど気分転換ができる事を実施する ・不安により不眠が続く場合は、医師に眠剤や安定剤の処方を検討してもらう |
教育項目 (EP) |
・不安に思うことを明確にし、必要に応じて今後の治療や病気に対して説明を行う ・家族にも協力を得て患者をサポートしてもらえるように説明する |
膵臓癌患者の看護の注意点
膵臓癌患者を看護する場合の看護師の注意点は以下の通りです。
精神的なケアは注意すること
膵臓癌はとても予後が悪いことから、患者は、膵臓癌であると知らされショックと恐怖感を強く感じます。治療は外科的治療を行う事ができても、再発する可能性も高いため抗がん剤や放射線治療も行うことが多いです。
そのような事もあり、治療に対する不安も強く、治療への意欲を失ってしまうこともあります。
そのため、患者の精神状態を把握することが重要です。治療は入退院を繰り返したり外来通院をおこなうなど長期に渡るため、信頼関係を築き、患者の思いを表出しやすくしていく事が大切です。
ポイント!
患者との信頼関係を築くことで、安心して治療を続ける事ができます。
患者のQOL(生活の質)を考えること
膵臓癌は、多臓器への転移も多く、様々な症状に患者は苦痛な思いをします。そのために生活行動が制限されたり、今まで楽しみだった事ができなくなったりします。
末期の状態は苦痛緩和のケアが中心となる
末期の状態で治療は困難であり、苦痛緩和のケアが中心となる場合もあります。そのような患者に対し、生活の質が少しでも高く保てるように関わっていく事が必要です。
そのためには、患者の個別性に合わせ、患者のやりたい事や要望を知ることが必要です。
看護師が求められる看護スキル
ここでは膵臓癌患者に看護師が求められる看護スキルについて2つご紹介いたします。
治療に対する知識や危険な症状を見極める観察力と判断力
前述したように、膵臓癌患者は抗がん剤や放射線治療を受ける人が多いです。そのため、治療に対する知識をしっかりとつけておくことが必要です。抗がん剤においては、点滴による治療や内服治療もあります。
点滴治療は、静脈から漏れたり滴下速度を誤ったりすると体に大きな影響を与えてしまいます。
そのため、慎重に行わなければならないことを理解しておくことが必要です。
抗がん剤や放射線治療の副作用の観察にも判断力は必要
抗がん剤や放射線治療の副作用の観察をする際にも、医師に速やかに報告すべき症状や看護の力で症状を緩和できるものを判断できる事が大切です。
例えば間質性肺炎と思われる症状が現れた場合は、早急に医師に報告し、抗がん剤治療を中止しなければなりません。
患者に寄り添うコミュニケーション能力
患者は、毎日様々な症状に苦しみ、不安な思いを抱えています。以前、膵臓癌患者と関わった際も、夜になると急に不安な気持ちになり眠れないという人や、眠る事自体が怖いという患者の訴えもたくさんありました。
補足説明!
患者は、そのような時に話し相手になったり、リラックスできるケアを行いながら会話をしたりと、患者にとって安心できるような存在になることも大切な役割です。
そのためには、患者との関わりを業務的にこなすのではなく、患者の気持ちに寄り添う事ができる力がとても重要です。
まとめ
参考文献:
- 日本消化器病学会様公式ホームページ
- Nursing Selection(2) 消化器疾患(初版)/株式会社 学習研究社
- 看護過程に沿った対症看護(改訂版)/株式会社 学習研究社
膵臓癌患者は、発見しづらかったり再発する確率が高いことから、症状を抑えるケアや進行を遅らせるための治療を行う人が多いという事が特徴です。患者も予後が悪いということで、自分が膵臓癌であるとわかった時点で、大きなショックを感じる人が多いです。
そのため、患者が病気や治療に対して正しく理解した上で、少しでも不安な気持ちを取り除き、治療や生活することへの意欲を失わないように関わっていく事が重要です。
そのためには、患者の状態の小さな変化も見逃さない観察力と、患者に合ったケアを行えるアセスメント能力や患者に関わるコミュニケーション能力を身につけ看護をおこなっていかなければなりません。