肝硬変患者の看護(注意すべき症状・看護計画)について

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肝硬変患者の看護(注意すべき症状・看護計画)について
   
あずさ 看護師
あずささん(看護師)

このコンテンツは、弊社が看護師免許を確認した看護師が執筆しておりますが、ご自身の責任のもと有用性を考慮してご利用いただくようお願いいたします。

肝硬変はさまざまな疾患や原因が治ることないまま経過した結果おこるものです。

肝臓は私たちの身体にとって重要な役割があるため、肝硬変によって多くの症状があらわれます。

このページでは看護師に向けて肝硬変患者の症状、看護の注意点、看護計画について詳しく説明していきます。

肝硬変の患者の症状

肝硬変の患者の症状

肝硬変は進行の具合によって、あらわれる症状が異なります。1つは代償期といわれ、まだ肝臓の機能が残っている状態です。

しかし、肝臓は「沈黙の臓器」と言われることもあり、全く症状が出ないまま進行してしまう場合もあります。

2つ目は非代償期で、ここまで来ると無症状だった方でも急速に症状があらわれます

肝硬変の代償期にみられる症状

肝臓には、食事から摂った栄養素の代謝、解毒、そして胆汁の生成、栄養を蓄えるという役割があります。

そのため、代償期にはホルモン代謝、脂質代謝、ビタミン代謝、たんぱく質代謝、胆汁の合成・排泄、アンモニア分解能力などが低下し、さらには門脈圧の上昇といった症状が、少しずつあらわれやがて進行していきます。その結果、以下のような症状があらわれます。

  • 全身倦怠感
  • 食欲不振
  • 体重減少
  • 腹部膨満感
  • 熱っぽい
  • 腹痛
  • 嘔気

このような症状は、どちらかと言うと軽度であり、患者本人も気にしていない場合が多いです。

肝硬変の非代償期にみられる症状

代償期から非代償期になると、明らかに異変だと感じる症状があらわれます。

具体的には、

  • 身体が浮腫む
  • 尿の色が濃い
  • 黄疸により皮膚や白目が黄色くなる
  • 男性の場合、女性化乳房
  • 手のひらが赤くなる
  • かゆみがある
  • 皮下出血ができたり出血が止まりにくい

このような症状がみられるようになります。

さらに悪化すると、

  • ばち状指
  • 腹壁静脈怒張(メドゥサの頭)
  • 食道・胃静脈瘤
  • 食道・胃静脈瘤破裂による吐血
  • 臍ヘルニアや臍静脈瘤
  • 腹水、胸水貯留
  • クモ状血腫
  • 羽ばたき振戦

などの症状があらわれる恐れがあります。

まだ症状があっても軽症の代償期に、症状が悪化したり、黄疸や浮腫みがみられるようになると代償期から非代償期に移行している状態だと考えられます。

肝硬変の患者で看護師が注意すべき症状

肝硬変の患者で看護師が注意すべき症状

肝硬変の非代償期になると、命の危険のある重大な症状があらわれる恐れがあります。

そのような重大な症状の出現をできる限り防ぐために、注意して欲しい症状についてみていきます。

出血傾向

たんぱく質代謝が低下することで、血液凝固因子の生成が低下します。

そのため、少しの刺激でも出血しやすく、止血困難になることも考えられます。

ポイント!

ポイント
服で見えないところも、定期的に観察し、紫斑がないか、貧血症状がないかを確認するようにしましょう。

皮膚の保清

ビリルビンがうまく排泄されなくなると黄疸がおこり、掻痒感が出てきます。

かゆみはなかなか我慢することができないので、無意識のうちに掻きむしるなど、出血をおこしてしまう恐れがあります。皮膚に掻いた跡がないか、かゆみがどの辺にあるのかを確認し、かゆみを抑えるような対処をおこないましょう。

腹水・胸水

たんぱく質の代謝が低下することで、血しょう浸透圧を調整するアルブミンの生成が低下します。

そのため、血管外へ水分が滲出し腹水・胸水がおこります。

このような状態で注意したいのは呼吸状態です。肺に水が溜まることで酸素の取り込みが不十分になり、腹部に水が溜まることで呼吸筋の働きを妨げることが考えられます。

息苦しさに慣れてしまう患者もいるので注意

徐々に酸素の取り込みが悪くなった患者では、息苦しさに慣れてしまい、訴えがないことがあります。ある程度まで血中酸素飽和度が低下すると、その後急激に低下し呼吸不全に陥る恐れがあります。

そのため、血中酸素飽和度や患者が無意識にとる楽な姿勢など、患者本人からの息苦しいという訴えだけでなく、客観的に評価するようにしましょう。

消化管症状

出血傾向があるため、一度大きな出血がおこると対処できなくなる恐れがあります。

肝硬変になると、肝臓へ血液が流れにくく、代わりにその血液が食道静脈に流れることで食道・胃静脈瘤ができやすくなります。

肝硬変になると高確率で食道・胃静脈瘤ができ、破裂した場合は止血が追いつかずに死に至る恐れもあります。

もしかして症状があらわれているかもしれないことを想定する

特に症状があらわれにくく、食事も問題なく食べられるため、吐血して発見されることが多いです。

もしかすると症状があらわれているかもしれないということを念頭において、患者からの消化器症状や飲み込みづらさなどの訴えを注意して観察すると共に、排便の性状(血便)や食形態にも注意しましょう。

精神症状

解毒機能が低下することで、血中アンモニア濃度が上昇します。アンモニアは私たちの身体にとって有害であり、アンモニアが脳に運ばれると脳の細胞にダメージを与えます。

そのため、昼夜逆転やうつ症状、容姿を気にしないなどの症状から徐々に悪化し、血中アンモニア濃度が高くなると昏睡状態に陥るといった精神症状がみられるようになっていきます。

補足説明!

補足事項
精神症状の初期でもある睡眠状態の変化や、気分、容姿などの変化を注意して観察する必要があります。

肝硬変の患者の看護計画

肝硬変の患者の看護計画

肝硬変は2つの病期があり、また患者の状態、肝硬変の原因となった疾患などによっても看護計画は変わってきます。今回は、代償期における浮腫に対する看護計画と、非代償期における肝性脳症による症状出現を防ぐための看護計画を立ててみます。

浮腫に対する看護計画

看護目標 浮腫による苦痛症状を緩和する
観察項目
(OP)
・バイタルサイン
・検査データ
・倦怠感の有無
・食欲の有無
・体重増加の有無
・腹囲の変化の有無
・腹部膨満感の有無
・呼吸困難感の有無
・衣類による締め付けの有無
・チアノーゼの有無
・褥創の有無
・水分摂取量
・排泄量
・安静度
・姿勢
・言動
ケア項目
(TP)
・食事、水分摂取量、排泄量を把握し、医師の指示の下、水分、塩分制限をおこなう
・呼吸状態によって安楽な体位が取れるよう援助する
・医師の支持の下、必要時利尿剤、アルブミン製剤の与薬する
・身体を締め付けない衣類の選択を促す
・倦怠感が強い場合には安静に過ごすよう声かけをし、環境の調整を心がける
・入浴時、浮腫部位を強くこすらないようにする
・浮腫による褥創が発生しないよう除圧をおこなう
教育項目
(EP)
・栄養指導により食事療法の必要性を説明する
・症状に応じて安静度を守る必要性を説明する
・症状憎悪時には遠慮せず知らせてもらうよう説明する

肝性脳症による症状出現を予防するための看護計画

看護目標 肝性脳症による精神症状を予防し早期発見に努める
観察項目
(OP)
・バイタルサイン
・検査データ(血中アンモニア)
・黄疸の有無
・意識レベル
・気分変調の有無
・異常行動の有無
・容姿
・睡眠状況
・腹水、胸水貯留の状況
・消化器症状
・くも状血腫の有無
・腹壁静脈怒張の有無
・水分摂取量
・排泄量
・安静度
・言動
ケア項目
(TP)
・怒責を防ぐために、排便状況を観察して適宜下剤の利用を検討する
・高アンモニア血症の場合は食事によるたんぱく質の摂取を制限する
・内服薬を確実に服薬できるよう支援する
・精神症状出現時の事故を予防するため、常にベッド周囲の環境調整をおこなう
教育項目
(EP)
・今後起こりうる症状を説明する
・栄養指導により、食事制限の必要性を説明する
・排便時の怒責をしないよう、排便コントロールの必要性を説明し下剤使用について指導する

肝硬変の患者の看護の注意点

肝硬変の患者の看護の注意点

肝臓の機能は、一度肝硬変まで悪化してしまうと完治させることはできません。そのため、どのような病期にある患者であってもいずれ何らかの症状があらわれることが想定されます。そのため、常に症状の悪化を予測できるような観察をおこなうことが大切です。

肝硬変が悪化した場合について

特に肝硬変が悪化し入院治療をおこなっている患者は、検査データをみながら、食事療法をしたり安静にしなければならないこともあり、患者がそれを受け入れられるような支援も必要になります。

補足説明!

補足事項
肝性脳症の症状をはじめて目にした家族が動揺することもあります。そのような場合に落着いて対応するよう家族へのケアも忘れてはなりません。

まとめ

肝硬変は、患者によりもともとの原因が異なります。また、重要な臓器であるからこそ多彩な症状があらわれます。

患者が気付きにくい症状も私たちが気付き、生活改善を促すことも大切な看護です。それぞれの患者にあわせた関わりによって、患者も家族も安心できる看護を提供していきましょう。

   
執筆・監修看護師

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