認知症患者の看護に関するポイント

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認知症患者の看護に関するポイント
   
沢田紫織 看護師
沢田紫織さん(看護師)

このコンテンツは、弊社が看護師免許を確認した看護師が執筆しておりますが、ご自身の責任のもと有用性を考慮してご利用いただくようお願いいたします。

認知症とは、知的能力が著しく低下した状態を指します。加齢による生理的な脳の変化によって起こる物忘れとも異なり、脳や身体の疾患が原因で、元に戻らない不可逆的な記憶や判断力等が障害され、普通の社会生活が遅れなくなった状態のことを指します。

認知症は、慢性的あるいま進行性の脳の疾患によって、認知機能(記憶、見当識、理解、計算、言語、判断力)などが多くの脳の機能障害からなる症候群です。

ここでは認知症患者に対する看護のポイントについて説明していきます。

認知症患者の特徴について

認知症は、脳の神経細胞が減少したり、切断されたりすることによって、記憶の機能が支障を来す病気です。それにより、記憶の連続性がなくなったり、記憶が抜け落ちたりするために、多くの情報が一度に入ると処理しきれなくなり、興奮、混乱に陥ります。

また、突然の状況の変化にも対応しにくいため、パニックになることもあります。

情報処理能力の低下に伴い、感情が動揺しやすくなる為に、感情の起伏も激しくなり、感情失禁がみられます。認知症の初期は、今まで出来ていた事が出来なくなる事によって、自身や自尊心を低下させ、心理的な葛藤のために不安や焦燥感、抑うつ、挫折感、絶望感を抱きます。

認知症患者の家族について

患者の病状を十分に理解出来ず、生活の援助に疲れてしまう家族も多いです。家族もまた患者をどのように受け止め、どのように患者の生活を支え居ていくかと考え、混乱や心理的な葛藤を抱えているケースがほとんどです。

認知症の要因について

認知症の要因については直性要因と二次的な要因と分けられます。その2つを説明していきます。

認知症の直性要因について

認知症の直接要因は7種類あります。

直接要因 詳細
脳血管性 脳出血や脳梗塞など
退行変性 アルツハイマー病、パーキンソン病、びまん性レビー小耐病、ハンチントン舞跳病など
内分泌・代謝性 甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏症、ペラグラ、ミトコンドリア症など
中毒性 アルコール脳症
感染症 クロイツフェルト・ヤコブ症、進行麻痺、脳炎など
外傷性 慢性硬膜下血腫、東武外傷後遺症など
膿腫性 脳腫瘍など
その他 正常水頭症、シェーングレーン症候群、多発性硬化症など

認知症の二次的な要因について

記憶・判断力などの知能障害による症状を悪化させる要因は、大きく分けて身体的要因、環境要因、心理的要因、廃用性要因があります。

二次的な要因 詳細
身体的要因 急性肺炎、インフルエンザ、下痢、脱水、などの疾患
視力や聴力の低下、栄養障害、薬の副作用など
環境要因 引越しや、入院、施設への入所など
心理的要因 プライドを傷つけられる用な出来事
不安や緊張等の強い状態、怒り等の感情を駆り立てられるような出来事
廃用性要因 刺激なの無い環境で何もせずにボンヤリしていることなど

認知症患者の看護計画について

認知症患者の治療は大きく分けて3つに分類されます。

  • 薬物療法
  • 作業療法、理学療法
    食事、排泄等の日常生活の指導や、手の作業を行いADLを高めたり、運動異能を高める為に掃除・炊事などの日常生活がスムーズに送れるようにすることをねらいます。
  • レクリエーション療法
    音楽、絵画、ゲーム、軽いスポーツなどを行う事によって、残存機能に働きかけて、精神機能を刺激し生活に適応出来るようにします。

アセスメントのポイントについて

ポイント 詳細
不安・焦燥感 不安・焦燥感の程度とそれによる妄想の程度を観察する
心理的反応を観察する
不安・焦燥感による攻撃的な側面を観察する
異食 食事動作の変化を観察する
徘徊 徘徊の有無、程度を把握する
身体状態 補水を促す
転倒転落のリスクを観察する
日常生活援助 わかりやすい言葉で、繰り返し説明
残存機能を維持出来るよう援助する

以上のポイントになります。以下で詳しく説明していきます。

不安・焦燥感について

不安・焦燥感の程度とそれによる妄想の程度を観察する

記憶障害があるため、大切な物をしまい忘れてしまうことや、物取られ妄想に繋がる事が多いです。また今まで出来ていた事が出来なくなることや、物忘れがひどくなったことを少し自覚できる状況だと、不安や焦燥感が見られます。

不安や焦燥感からの防御反応として、妄想が見られることもあります。身近な家族から意地悪されていると思うことや、反対に強い不安から家族の後ろをついて歩き回るなどの行動にあらわれます。

心理的反応を観察する

何かしようとしてもその方法が分からなくなる事が多く、何かをしたくなることもなくなり、抑うつ的な気分になることも多いです。

不安・焦燥感による攻撃的な側面を観察する

清潔行動や、行為、排泄行動、食事動作などセルフケア行動が取れなくなると、治療者が行動を注意したり制止したりすると。その言葉に反応して、攻撃的な行動が出ることや、援助に対して抵抗を示す場合があります。これは治療者の意図を十分に理解出来ていないためや、うまく伝わらないため、あるいは自分の動作が鈍くなってうまく行動出来ないという不安の現れです。

異食について

食事動作の変化を観察する

認知症で記憶が障害されている為に、これまでに出来ていた食事動作や排泄動作などのセルフケア行動が出来なくなっていきます。また、コントロール機能がうまく働かないため、食事をしたことを忘れてしまう、食後にまた食事を摂る過食、物の認知機能がうまく働かなくなり食べ物ではない物を食べる事もあります。

徘徊について

徘徊の有無、程度を把握する

物忘れから道順を覚えられなくなり、いつも通っているはずの道に迷う事があります。そのために、迷って歩き回る事もあります。全く無目的にあるいは常同的な歩行としか思えない徘徊も見られます。

身体状態を確認する

認知症の患者は、自ら身体の不調を訴えて来る事が少ないため、全身状態を観察する必要があります。バイタルサイン、食事摂取状況、排泄量・性状、排泄の時間などを観察し、排泄誘導を行います。

補水を促す

自ら補水をしないため、補水を促し、脱水予防に努めましょう。

転倒転落のリスクを観察する

患者が出来る事、出来ない事を見極め、足取り、リズム感、筋力等の歩行状態や打撲の有無を観察します。転倒転落リスクを予測し、予防策を講じて回避します。

日常生活援助を行う

入浴、整髪、歯みがき、ひげ剃りなどの清潔を維持する行動や、飲水や食事、排泄など生命を維持する行動など、日常生活行動でできないところを援助します。

わかりやすい言葉で、繰り返し説明し、プライドを傷つけないように

介助する際には、何を行うのか、わかりやすい言葉で、簡潔に説明する事で、患者に不安を与えないようにします。必要であれば、繰り返し説明したり、介助しながら声をかけたりします。これは次に何をするのか、患者が不安になって、援助を拒否する場合があるからです。

残存機能を維持出来るよう援助する

患者のプライドを保つ為にも、残存機能維持目的でも、本人の能力の範囲内で、自分でやってもらうという方法が良いでしょう。時間にゆとりを持ち、危険が無いように配慮しながら行ってください。

認知症患者の治療に効果的な看護師の接し方

認知症患者へ看護師が接し方のポイントは以下の通りです。

  • 患者が抱いている不安などについて共感すること
  • 対象者の能力を活用すること
  • 家族への支援をすること
  • 患者のプライドを傷つけない看護を心がけること

詳しく説明していきます。

患者が抱いている不安などについて共感する

患者は、記憶がなくなる、うまく動けない、これからどうなってしまうのかなどの不安を抱えていることが多いので、その訴えを十分に聞き、共感的態度で接することが必要です。

また、患者は人生の先輩でもあるので、患者のプライドを尊重することが大切です。言葉の気遣いをしましょう。

補足説明!

補足事項

患者が失敗したり、出来なかった事を責めるのではなく、患者が体験している今の感情や思いを理解するという態度を示しましょう。患者には記憶障害があるのでその都度患者の不安を軽減するように援助しましょう。

対象者の能力を活用する

患者の持っている能力を常に把握し、それを活用しレクリエーションや作業療法などの活動を促していきましょう。可能であれば歩行訓練や、身体活動を促したり、筋力低下を防ぐようなレクリエーションをやるのも良いでしょう。

洗濯や掃除等日常生活状の訓練を行うのも良いでしょう。

家族への支援をする

家族は、認知症になった患者を受け入れ難く、特に親役割など家族の一員としての役割をとることを期待してしまう場合も多いです、また認知症になった患者をどのように援助すべきか戸惑っている場合もあります。

家族がありのままを受け入れられるようにするために、患者の状況を知的に理解出来るように説明を行うとともに。家族の患者や介護に対する思いを聞き、共感を示していけるようにしましょう。

認知症患者に看護師が接する時の注意点

患者は人生の先輩であり、記憶が無くなっている部分もあるかもしれないし行動化出来る部分が少なくなっているかもしれませんが、その事実は変わりません。患者のプライドを傷つけない看護を心がけ話し方・礼儀を、看護者はきちんとわきまえなければいけません。

認知症患者に対して、子供に接するかのような対応が見受けられることがありますが、患者自身の自尊心に傷がつくだけでなく、症状の悪化へと繋がりかねません。

まとめ

現在、認知症患者を受け入れる施設や病院は多くあります。看護師が仕事をしている中で、必ず出会う患者だと思います。

患者がなぜ、攻撃的になるのか、妄想が出るのか、などメカニズムを理解し、看護に携わって欲しいと思います。そして家族への配慮も非常に重要な看護ケアになります。患者を取り巻く環境を整備し、患者がリラックスして過せるよう配慮していってください。

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