このコンテンツは、弊社が看護師免許を確認した看護師が執筆しておりますが、ご自身の責任のもと有用性を考慮してご利用いただくようお願いいたします。
前立腺は、男性だけにある3cmほどの栗の実のような形をしている臓器です。前立腺液と呼ばれているものを作っています。射精のために精液を尿道へ送る働きもします。
前立腺癌は、50歳以上と加齢とともに発生頻度が増加します。欧米では、男性死亡者の約20%を占めるほど多い疾患ですが、日本では3%ほどと言われています。
しかし、生活様式の欧米化や高齢化などによって年々増加すると考えられています。今回は、前立腺癌の症状から検査、治療そして看護計画と注意点について説明していきます。
前立腺癌の患者の症状について
初期 | 無症状、人によっては不快感を感じる人もいる |
前立腺癌は、初期段階では無症状のことが多いのが特徴です。
癌の進行が進み周囲への湿潤が見られるようになると様々な症状が出現してきます。
癌が進行した場合や他の部位に転移した場合の症状
尿道・膀胱への転移 | 排尿困難・尿閉・残尿感・排尿時痛・腹部不快感・頻尿・血尿など |
リンパ節転移 | 転移部の腫脹・疼痛 |
骨転移 | 骨折・疼痛・(広範囲にわたると)貧血・DICなど |
ただし、症状だけ診ても前立腺癌と確定することができません。なぜなら、前立腺肥大症でも似たような症状が出るからです。
前立腺癌であることを確定診断をしていかなければ前立腺癌の治療も開始できません。
前立腺癌の患者への検査について
直腸診
肛門から指を入れて直腸まで進み、前立腺を触ります。前立腺の大きさ(腫瘤の有無)や硬さ、疼痛の有無などを確認していきます。前立腺癌では初期の段階から腫瘤を触れることができます。
血液検査
血液検査の中でも特にPSA(前立腺特異抗原)の測定が重要です。
0~4ng/ml | PSAの正常値 |
4~10ng/ml | 約30%程度で癌の可能性があり |
20ng/ml以上 | かなりの確率で癌を疑われる |
ただし、この検査は前立腺肥大症や前立腺炎でも高値になるため、これだけで前立腺癌と判断しないようにします。
超音波検査
前立腺癌が疑われるときには、腹壁に機械を当てて行う超音波検査ではなく、肛門内に超音波の器械(プローブ)を挿入し、前立腺の状態を確認します。
正常の前立腺は左右対称で各領域の境界もハッキリわかりますが、前立腺癌の場合、左右不対称であったり、各領域も不明瞭です。
前立腺生検
(3)の超音波の検査をしながら、前立腺の場所を確認し、穿刺して前立腺の組織を採取します。採った組織を顕微鏡で確認をし検査をします。
CT、MRIなどの画像検査、骨シンチグラム
前立腺癌の湿潤範囲を把握するために実施します。骨転移の有無や範囲を調べるためには骨シンチグラムを実施します。
ポイント!
これらの検査を行い、前立腺癌の確定診断につなげていきます。確定診断が着き、治療方針が決まります。
前立腺癌の患者で看護師が注意する症状
前立腺癌の初期は無症状のことが多く、症状が出てきた段階ではある程度癌が進行している状態であると言えます。症状だけではなく、医師より癌と告知されたときの精神的ショックは計り知れないものです。
なかなか受け入れられない患者もいる中で、看護師として、特に注意して診ていかなければならない症状を説明していきます。
排尿の状態に注意する
「最近、おしっこが出にくくなった。」や「尿のキレが悪い。」という言葉が聞かれた場合は注意が必要です。
このような訴えが聞かれた場合以下のようなことを確認しておきましょう。
- いつごろから症状が出始めたのか
- 排尿回数はどのくらいか
- 排尿時痛や下腹部痛はあるか
- 血尿はみられていないか
これらのことを確認しておきましょう。
その他、看護師が確認すること
それ以外に確認することとして、
- 体重の増減はないか
- 検査データーの確認
- 食事摂取量、食欲の有無
- 排尿時痛以外の疼痛の有無
- 貧血などの体調面の確認
などの確認も合わせて行いましょう。
術後の管理について
前立腺癌の治療では、手術、ホルモン療法、放射線療法、化学療法など様々な治療がなされます。
尿の性状(血尿・コアグラの有無) | ダラダラと長期間続いている場合は要注意 |
疼痛管理 | 痛みがある場合、無理をせず医師に報告し鎮痛剤を使用していく |
貧血の有無 | 後出血による貧血の有無を血液データーや状態を診て確認 |
尿漏れの有無 | 膀胱留置カテーテル抜去後尿漏れが見られる患者が多い |
術後の管理は特に注意して診ていかなければなりません。
精神的苦痛への係わり
前立腺癌であることを告知され、「自分が癌になってしまった。」というショックから精神的にダメージがかかってしまうことが多いです。
患者だけではなく、その家族も不安やショックという苦痛が伴います。
看護師として、以下のようなことへの理解と援助を行っていく必要があります。
- 疾患に対する理解、受け入れ
- 検査・治療に対する不安
- 手術した場合、術後の不安
- 退院後の日常生活への不安
- 社会復帰にむけての不安
疾患から検査、治療(手術)の不安への対応は入院中に対応できます。
わからないこと、不安に思うことはないか、患者に向き合って話を聞いていくことが重要です。
退院後の患者の生活と社会復帰への不安について
退院後の生活、社会復帰への不安については、家族や会社、患者の周りの周囲の協力と理解が必要です。
家族との話し合いは入院中でもできます。退院後も同じような悩みを持つ患者の会もあることを紹介しても良いかもしれません。
補足説明!
今の時代、インターネットでもブログやコミュニティなど普及しています。そういったものの活用も患者の年齢によっては話てみても良いでしょう。
前立腺癌患者の看護計画について
では、いよいよ看護計画を立てていきます。
前立腺癌の看護計画として、今回は、前立腺全摘出術の術前・術後の看護計画をご紹介していきます。
#1不安(前立腺癌全摘出術を受ける患者の看護過程)
看護目標 | ・疾患に対して自分なりに受け入れ 癌に対する不安に対処することができる ・検査の必要性、手術のイメージつけ、術後の状態を理解することができる |
OP(観察項目) | ・前立腺癌に対する理解度 ・検査・処置、治療に対する理解度 ・患者の表情・態度・発言の状況 ・疾患に対する受け入れ ・不安の程度 ・食欲や食事量の状況 ・睡眠状態 ・家族の協力状況 ・手術に対する受け止め方(患者・家族) ・術後の状態~社会復帰までの理解 |
TP(ケア項目) | ・術前検査の実施※1 ・不安に対する訴えや態度に対してはしっかり対応する。内容に応じては医師とも連携をとり、説明していく ・不安による睡眠障害が生じる場合は医師に相談のもと睡眠導入剤の使用も検討する ・家族の協力が得られるように、医師の説明を聞き、現在の患者の状態を把握してもらう ・手術に対する受け止め方を確認し、必要に応じて補足する ・術後から退院、社会復帰までの不安を受け止める |
EP(教育項目) | ・不安に感じたことがあった場合はいつでも話しても良いことを伝える ・患者からの訴えについては情報共有していく ・検査や手術について理解できるまで何度も質問しても良いことを伝える ・不眠時は睡眠導入剤を使用できることを伝える |
※1より不安を取り除くために、言葉遣いや態度に気を付け、プライバシーの守れる場所の確保や時間にゆとりを持って説明を実施していくようにする。
#2術後合併症
OP(観察項目) | ・バイタルサイン ・疼痛の有無・疼痛の程度 ・ドレーンからの排液量と性状 ・創部の状態、浸出液の有無 ・膀胱内留置カテーテルからの尿量と性状 |
TP(ケア項目) | ・ドレーンやカテーテルに注意して管理する ・処置は無菌操作で実施する ・疼痛コントロール(鎮痛剤の使用、安楽な体位変換) ・深部静脈血栓症の予防(弾性包帯の使用、早期離床、下肢の運動を促す) ・感染予防(陰部洗浄) ・水分摂取を促していく |
EP(教育項目) | ・ドレーンやカテーテルに触れないように説明する ・膀胱留置カテーテルの取り扱いを説明する ・疼痛時は我慢せず相談するように伝える ・下肢の運動の必要性や早期離床の必要性を説明する ・水分接種可能の指示が出たらしっかり水分接種を行うように説明する |
#3排尿障害
看護目標 | ・尿失禁に対する対応ができる ・排尿コントロールを掴めることができる |
OP(観察項目) | ・バイタルサイン ・排尿の状態の確認(尿量、尿の正常) ・尿失禁の有無・程度 ・皮膚状態(尿失禁による発赤・びらんの有無) ・尿失禁に対する患者の感情、受け入れ ・尿失禁に対する患者の対応の理解 |
TP(ケア項目) | ・定期的に排尿の状況を確認する ・おむつ内の確認を行う(パットに尿失禁がないか) ・陰部洗浄を徹底する |
EP(教育項目) | ・骨盤底筋の筋力トレーニングを指導する ・排尿状況を分析していく (尿失禁の回数・程度、時間、尿の性状などを確認する) ・定期的にトイレ誘導を行う ・尿取りパットや失禁下着を必要に応じて使用していくように説明する ・常に陰部は清潔に保つように指導する (ウォシュレットなどの活用など) |
#4性的機能障害
看護目標 | ・手術による性的機能将棋について理解できる ・今後の性生活についてに前向きになることができる |
OP(観察項目) | ・性的機能障害に対する患者の受け止め ・今後の性生活に対する表情・発言 ・パートナーとの関係、反応 |
TP(ケア項目) | ・不安や恐れ、疑問に対する思いを傾聴する ・必要に応じて、医師より説明を受けられる機会を持つ ・パートナーと話す機会を持てるように調整する ・必要に応じて専門医を紹介する |
EP(教育項目) | ・不安や恐れ、疑問に対する思いがある場合、いつでも相談に乗ることを説明する ・術後やホルモン療法などで起こる症状(勃起障害など)については、事前にパートナーも交えて説明する ・パートナーと前向きに支えあいながら生活していくことの重要性を説明する ・希望があれば専門医に相談できることを説明する |
まとめ
今回は前立腺癌に対する看護について説明してきました。
前立腺癌は男性特有の癌であり、女性の看護師に不安を言ったり疼痛の訴えを言えないこともあります。
それは、泌尿器の分野の疾患ではよくあることですが、看護師として、いかに話しやすい雰囲気を作るかも大切なことになってきます。
患者の気持ちを親身に受け入れる態度や話し方一つ1つが大切になってきますので、他の疾患の看護以上に意識をして対応していくようにしましょう。