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食道がんの原因は、多臓器のがんと同様に不明ですが食道がんの発症には長年にわたる喫煙と飲酒が関係すると言われています。
特に高濃度のアルコールは危険因子とされ、熱い食物・飲物による慢性的な刺激や保存食に含まれるニトロソ化合物、低栄養(微量元素欠乏)などの関与も指摘されています。
今回は、食道がん患者の症状と看護計画について紹介していきます。
食道がん患者の症状
食道がん患者の早期の症状は、無症状であることがほとんどで検診などによって見つかる場合が多いです。
早期の食道がんから「筋層・臓器に浸潤した場合の症状」「リンパ節に腫瘍が転移した場合の症状」「大動脈へ浸潤した場合の症状」についてそれぞれ説明しています。
食道がん患者の症状
食道がんの早期から大動脈へ浸潤した場合の症状は以下の通りです。
早期 | ・無症状 (検診などにより発見) |
腫瘍が筋層まで浸潤 | ・嚥下時の不快感 ・つかえ感 ・狭窄感 ・しみる ・嚥下困難 ・胸痛 ・背部痛など (食物が停滞するため) |
腫瘍が周囲の臓器に浸潤 | ・食道気管支瘻 ・食道縦隔瘻を起こす (肺炎・膿胸などを併発して呼吸器症状を訴える) |
反回神経周囲のリンパ節に腫瘍が転移 | ・嗄声 ・誤嚥など見られる |
腫瘍が大動脈へ浸潤 | ・大出血を起こし死亡に至る |
腫瘍が筋層まで浸潤した際、はじめは固形物がつかえ、しだいに流動物もつかえるようになり、ついには液体も通らなくなるため、「体重減少」「栄養状態の低下」「脱水」「貧血」などがみられます。
食道がんの治療方法と看護師が注意すべき症状
食道がんの治療方法としては、内視鏡的治療や外科的治療・放射線治療など様々なものがあります。
その他、確実な治療方法としての根治術や早期治療についても説明していきます。
食道がんの治療方法
食道がんの治療方法には、
- 内視鏡的治療
- 外科的治療
- 放射線療法
- 化学療法
- 対症療法
などがあります。
治療法は病巣の切除、リンパ節郭清・食道再建を行う根治術が確実な方法ですが、根治術は開胸・回復と手術範囲が広く広範囲に及ぶことから生体への侵襲が大きくなります。
早期がんの治療方法
早期がんに対してはレーザー治療(PDT)・アルゴンプラズマ凝固法(APC)・内視鏡下粘膜切除術(EMR)などが行われます。
補足説明!
外科的療法となる場合は、食道切除術や食道再建術が行われます。
看護師が注意すべき症状
がんの進行により食道の通過障害が起こると、「つかえ感」「停滞感」「嚥下障害」などを訴えることや、食事摂取量が不足していると、低栄養状態や貧血になることがあるため注意すべき症状と言えます。
看護師は患者の術後合併症の予防に努める
食道がん患者は、低栄養状態や貧血になることによって全身倦怠感が強く、活動量が低下し、さらに食事による満足感が得られず、不安や焦りを生じるようになります。
そのため、看護師は食道がん患者の栄養状態を把握し、「栄養状態」「全身状態の改善」を図り、術後合併症の予防に努めることが重要です。
補足説明!
食道がん患者が、つかえ感等を訴えてきた場合は、胸部や背部をたたく・なでるようにして食事を摂取してきたかを把握します。
食道がん患者の看護計画
食道がん患者の栄養状態を把握し、全身状態の改善を図る必要があるため、#1癌細胞の増殖、浸潤による嚥下障害に関連した必要量以下の栄養摂取量となります。
術後、食事が開始されると食物の逆流による、
- 食道の慢性炎症
- 食道周囲組織の瘢痕化
- 術後縫合不全
などによる吻合部狭窄を起こし食物の通過障害が生じ、低栄養状態になりやすくなります。
そのため、#2食物の逆流による食道内の慢性炎症、食道周囲組織の瘢痕化、術後縫合不全による吻合部狭窄に関連した必要量以下の栄養摂取量となります。
食道がんは、手術侵襲が大きいため術後合併症を起こしやすくなります。
また、食道は吻合部の血行障害が生じやすく術後は低栄養状態になり吻合不全が起こり、#3無気肺、肺炎、吻合不全となります。
以下でそれぞれの看護計画を見ていきましょう。
#1癌細胞の増殖、浸潤による嚥下障害に関連した必要量以下の栄養摂取量
看護目標 | 低栄養状態、貧血が改善し、良好な状態で手術に臨むことができる。 |
OP (観察項目) |
・バイタルサイン ・検査データ ・食事摂取量、食事形態、水分量、食欲の有無 ・嚥下状態、嚥下困難、通過障害の有無と程度 ・体重の変化、BMI ・嘔吐、下痢の有無 |
TP (ケア項目) |
・術前の輸液管理 ・食事は本人や医師と相談し食べやすい形態に調整 ・血液製剤の管理 |
EP (教育・指導項目) |
・高カロリー、高たんぱく、高ビタミン食の必要性の説明 |
#2食物の逆流による食道内の慢性炎症、食道周囲組織の瘢痕化、術後縫合不全による吻合部狭窄に関連した必要量以下の栄養摂取量
看護目標 | 食事の摂取方法を理解し、実施することで良好な栄養状態を維持できる。 |
OP (観察項目) |
・バイタルサイン ・食事摂取量、摂取速度、食事形態、水分量、食欲の有無 ・嚥下状態、嚥下困難、通過障害の有無と程度 ・悪心・嘔吐、つかえ感の有無と程度 ・胸やけ、灼熱感、心窩部痛などの有無と程度 ・ダンピング症候群の有無 (冷汗、イン脈、動悸、眩暈、しびれ、顔面紅潮、悪心、嘔吐、下痢など) ・体重の変化、BMI ・食事摂取に対する不安の有無 ・食事摂取の知識・理解の程度 ・検査データ |
TP(ケア項目) | ・食事摂取状況や検査結果の確認、食事内容、量、回数の工夫と調整 (誤嚥の恐れがある場合は、とろみをつける。) (本人・医師と相談し好みの食べ物を取り入れ、食欲を高める工夫をする。) (実際に摂取状況を確認し適宜注意を促す。) ・食事中の体位の工夫 (坐位やファウラー位を促す。) (食後30分~1時間は上体を起こす。) ・病室環境の調整 (落ち着いて食べられるようにベッドサイドやテーブルを片付ける) (誤嚥の恐れのある患者の場合、吸引器を準備しておく。) ・口腔内の清潔保持 ・輸液管理 |
EP (教育・指導項目) |
・術後に起こりやすいダンピング症状について説明する。 ・通過障害、ダンピング症状出現時は、すぐに知らせるように説明する。 ・家族にサポート体制の重要性を説明し、整えるように説明する。 (退院後の生活、社会復帰に向けて) ・患者・家族に不安や疑問について、その都度相談に乗ることを説明する。 |
#3無気肺、肺炎、吻合不全
看護目標 | 早期離床が進み、無気肺や肺炎、吻合不全を起こさず、順調な経過をたどることができる。 |
OP (観察項目) |
・バイタルサイン (脈拍、血圧、体温、呼吸状態、意識状態) ・肺音聴取 (肺雑音、無気肺) ・検査データ (WBC、RBC、CRP、TP、Alb、Hb、動脈血ガス、SpO2、胸部X線検査など) ・腹式呼吸法、咳嗽の有無と頻度 ・咳嗽の有無と程度、気道内分泌物の性状、喀痰出の状況 ・気道狭窄・狭窄感の有無 ・創部の状態 (発赤、浸出液、疼痛の有無と程度) ・ドレーンからの排液状態 (色、性状、量) ・貧血症状の有無と程度 ・皮膚の状態 (黄疸の有無、乾燥の有無と程度) ・嗄声・胸背部痛・血痰・消化器症状 (悪心・嘔吐、胃部不快感、灼熱感、食欲不振の有無) |
TP (ケア項目) |
・深呼吸の促進 (呼吸訓練器具を用いて行う。) (患者の状態に合わせ、術前オリエンテーションに基づき援助しながら行う。) ・気道内分泌物の除去 (ネブライザー、吸引、タッピング、体位ドレナージ) ・患者の全身状態に応じた早期離床 ・口腔ケアの実施 (術後は酸素投与などで口腔内が乾燥し、汚染しやすいため。) (気道内分泌物は年調になりやすいため、経口摂取開始に向けて口腔内の刺激をはかる。) ・ドレーンの適切な固定 (固定の状況、閉塞の有無、流出状況確認して必要時ミルキングを行う。) ・創部の清潔保持 |
EP (教育・指導項目) |
・適宜、深呼吸や腹式呼吸の必要性を説明し、練習を促す。 ・排痰時、必要に応じて声かけをしながら説明する。 ・早期離床の必要性を説明する。 ・縫合不全について説明する。 |
食道がん患者の看護に必要なこと
手術適応の場合、一般に食道がん手術を受ける患者は、嚥下障害から栄養状態が低下していることが多いため、栄養状態が改善でき手術に臨めるよう援助する必要があります。
食道がん手術は、縫合不全を起こしやすい特徴があり、術後は縫合部の緊張や噴門部の切除により、消化液の逆流が起こって吻合部の治癒遅延を引き起こしやすいため、患者に十分説明することで縫合不全を起こさないよう努めます。
まとめ
参考文献は以下の通りです。
- 疾病の成因・病態・診断・治療 303~304頁 医歯薬出版株式会社
- 疾患別看護の展開 272~289頁 学研メディカル秀潤社
食道がんの治療は、患者の全身状態や進行度によって多岐にわたるため、治療内容について医師と密な連携をとり治療内容を理解することが必要です。
手術治療を行う場合、他の消化管手術と比較して手術侵襲が大きく合併症を起こす危険性も高いため、十分な観察を行う必要があります。
食道がん患者と接する機会がある看護師は、是非参考にしてみて下さい。